つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

『「狙われたキツネ」ヘルタ・ミュラー』をはじめ、日ごろから雑多に読んでいる本・書籍について、読書感想文とか雑記とか、つれづれ気ままに書評・ブックレビューを記していきます。相互リンクは随時募集しています。

2010年10月18日

「狙われたキツネ」ヘルタ・ミュラー

 1989年12月、チャウシェスク政権が崩壊。
 「狙われたキツネ」は、革命前夜のルーマニアを描いた作品。
 以前にも読んでいたが、ヘルタ・ミュラーが昨年、ノーベル文学賞を受賞したこともあり、新装版が発刊されたので再読。
 ふたりの若い女性、教師のアディーナと工場で働くクララの姿を通して、独裁政権下の日常が描かれる。
 上司に睨まれたアディーナは秘密警察の影に怯える。一方、クララの愛人は秘密警察の男。
 ここでは誰もが猟師で、誰もがキツネになる。
 栄養失調でイボだらけの指をした子どもたち。一方で独裁者は毎朝新品の服を着る。その不条理の世界では、絶望が風景まで変容させる。
 大輪のダリアはキッチンや寝室を監視する。公園の空気にも恐怖がたちこめ、空はこの街を捨てて遥かな上空に出ていく。ひからびた日常を生きるうち、この国がドナウ川で遮られ、自分たちが見捨てられていることも当然と思えてくる。
 不幸と絶望が、現実味いっぱいに描かれる。
 独裁者は処刑されるけども、それすら「気にすることはない」。何も変わらないのだから。
 この言葉に、独裁者が消えても、われわれ自身の中にも、その残酷さの種はあるのだと指摘されているように感じ、幸福とは、豊かさとは何かと考えずにはいられない。

2010年05月10日

「読むことは旅をすること―私の20世紀読書紀行」長田弘

先日、朝のワイドショーで取り上げられていたが、今、著名人の墓が、一部で流行っているらしい。
この「読むことは旅をすること」は、海外の詩人や文学者などにゆかりの地を訪ね歩いた読書にまつわる紀行文。直接・間接に戦争や革命の犠牲となった人々も多く、彼らの墓を探し訪ねる旅を綴った文章も多数収められている。
つまり、紀行文とは言っても、「戦争と革命の世紀」と呼ばれた20世紀に生き、国家の暴力に抗して言葉の力で闘った人々の足跡をたどる旅だ。
国家や時代とどう向き合うべきか――文学者たちの鎮魂とともに、今に生きる我々への問いかけでもある。

2008年10月03日

「ひかりの剣」海堂尊

チーム・バチスタの栄光」でおなじみの東城大と帝華大が舞台……と言っても、医療面ではなく、医学生の剣道大会優勝をめぐり、積年のライバル関係にある東城大の速水晃一と帝華大の清川吾郎の二人が織りなす、剣道一直線の青春ドラマ。
なので、この「ひかりの剣」だけを読んでも、十分に楽しめる。
だが、速水の「ジェネラル・ルージュの凱旋」と清川の「ジーン・ワルツ」を読んでいれば、二人の未来像との対比で、さらに楽しい。

2008年06月23日

「タルト・タタンの夢」近藤史恵

タルト・タタンの夢」は、下町の小さなフレンチの店が舞台のミステリー連作短編集。店で話題にのぼった謎を、無口なオーナー・シェフが料理を手がかりに鮮やかに解き明かしていく。7編が収録されている。
 常連である西田さんは、なぜ体調を崩したのか?
 甲子園出場をめざしていた高校野球部で起こった不祥事の真相は?
 お客の恋人は、なぜ最低のフランス料理をつくったのか?
 従業員たった4人という小さな店で出される料理や飲み物の描写も、ビストロで働く人たちの姿も、ともに温かく、ほのぼのとした安らぎを与えてくれる一書。

2008年05月16日

「私は日本のここが好き!」加藤恭子編

 この「私は日本のここが好き!―外国人54人が語る」では、副題にもある通り、54人の外国人が、自分が日本を好きな理由や体験を語っている。
 例えば中国から日本に来て20年という姚南さんは、電車の中で後ろの女性の靴先を踏んでしまった時のエピソードを。すぐ謝ると、その女性はほほ笑んで「靴先は空いているから大丈夫ですよ」と。
 また、オーストラリアのスコチッチさんは、ある春、モノレールを利用した。同じ年の秋にまた来日した時、春の利用時にチケット代が過払いであったと150円入りの封筒を渡されたという。
 やはり日本が好かれるのは、美しい自然・景色・歴史はもちろん、繊細な心のあり方だと気づかされる。
 国際情勢の中で、必ずしも日本の立場は盤石ではない。反日感情をぶつけられる場合も多い。
 そこにはやはり「私は日本のここが嫌い!」という原因がある。
 好きな理由と、嫌われる原因。どちらも直視して、やっとそこから本当の人間関係、国家関係が築かれていく。
 忙しい現代社会の中であっても、少し足を止めて、自分がよって立つ場を顧みることも必要だと思う。
 本書は、そのきっかけにふさわしい一書だ。
プロフィール
etacky エタッキー
 地方在住者。
 若干、活字中毒気味。
 ただし読書速度は速くはないので、気ままに読み進めています。
カテゴリー
最近のエントリー
RSS新着情報
Amazonサーチ
訪問者数

読書ブログランキング
にほんブログ村 本ブログへ
ページビューランキング
検索
Google
最近のコメント
最近のトラックバック
アーカイブ
リンク集

ブログアクセサリー
あわせて読みたい
SEO Stats powered by SEO-Stats.com
スカウター : つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー
Googlebot last access powered by Linkfind.org
テクノラティお気に入りに追加する
 RSSリーダーで購読する
[フィードとは]
はてなRSSへ追加
Livedoorへ追加
My Yahooへ追加
Google Readerへ追加

track feed track feed

このエントリーを含むはてなブックマークこのブログのはてなブックマーク数 あとで読む

Copyright © 2006-2008 つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー All Rights Reserved.

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
このブログは、次のライセンスで保護されています。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス.

Powered by Movable Type 3.2-ja-2