「剣は、抜かぬが最善、抜いても仕掛けぬが次善、このほかに善はなし」――長沼正兵衛が筧新吾を諭すこの言葉が、何故か心に残っている。
前回紹介した「
藩校早春賦」でも述べた通り、NHK時代劇「夏雲あがれ」に惹かれて手に取ったのだが、青春活劇の中に、いぶし銀の輝きを感じたのがこの言葉だったのか。
周りが変化していく状況で、自分一人が大人になれないと悩んでいた新吾だから、この場面の後も、真っ直ぐな性格のまま、悩みながらも刀を振る。
剣を抜かずに最善の道を歩むには、とてつもない人間としての器と力が必要なのだ。
その力をつけ、器を広げるために、新吾たちは青年期を全力疾走で駆け続けている。そんな感じがする。
志保の「関屋の帯」のエピソードも、女心が彩りを添えて、いっそ爽やかだ。