つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

2006年07月に書いたページ。日ごろから雑多に読んでいる本・書籍について、読書感想文とか雑記とか、つれづれ気ままに書評・ブックレビューを記していきます。

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2006年07月31日

「北斎の娘」塩川治子

 「お前、男に生まれりゃよかった。そうすりゃ、わしよりいい絵師になっていたかも知れねえ」
 ――『富嶽三十六景』などの作品で有名な葛飾北斎。
 その娘・お栄は婚家を追われた後、父を助けて絵筆を振るった。
 信州・小布施で大作「鳳凰図」を手伝い、一層、画境を深める。
 父を支えつつ「女」であることに苦悩し、絵師としての自立を模索した女性の半生を描いた伝記小説。

2006年07月30日

「ドン・キホーテの独り言」木村榮一

 スペイン中央部の大学都市アルカラー・デ・エナーレスは『ドン・キホーテ』の作者セルバンテスの生地。
 この地に大学の客員教授となって赴任した著者が、生活を楽しむスペインの友人たちの暮らしぶりを伝えるエッセー集。
 闘牛、料理、コーヒー、蜂蜜、釣り、さらに市場の行列まで蘊蓄を傾ける。
 現実と幻想が混然と溶け合ったかのような、スペインの文化・文学風土を楽しむことができる。

2006年07月29日

「覇商の門」火坂雅志

 戦国の世、戦場の死体から甲冑や刀をはぎ取り、修繕して武将に売りつける彦八郎(後の今井宗久)は、世に出る機会をうかがっていた。
 合戦に鉄砲が使われるのを見通して、火薬の輸入ルートを押さえ、鉄砲の量産に着手。
 群雄割拠のなか台頭著しい織田信長に接近する。
 天下一の茶人にして堺の豪商の、野望に満ちた波乱の生涯を描く。

2006年07月28日

「ペトロバクテリアを追え!」高嶋哲夫

 石油生成バクテリアを日本人科学者・山之内が開発した。
 これを察知した石油メジャーや産油国は直ちに実用化阻止に動き出した。
 度重なる妨害のなか、山之内らは培養技術の確立に心血を注ぐ。
 ところが、バクテリアに恐るべき特性が発見された。
 迫りくる暗殺者の姿を感じながら、山之内の下した決断とは……。
 世界を揺るがしかねないバイオ技術の近未来を描くサスペンス。

2006年07月27日

「非核と先住民族の独立をめざして」ケイト・デュース&ゾール・デ・イシュター編

 アラモゴルド、広島、長崎に続き、4度目の被爆地となったマーシャル諸島・ビキニ環礁。
 以後、米英仏の各国は太平洋地域で371回の核実験を行い、放射能汚染は「ジェリー・フィッシュ(クラゲ)ベビー」と呼ばれる奇形児を産み続けている。
 暴力による土地接収、植民地化、微々たる補償といった一連のやり口は、過去のことではなく現在進行形の問題であることを、現地の女性たちの証言を通し告発する一書。

2006年07月26日

「絵本のあたたかな森」今江祥智

 児童文学生活40年の著者が“心にしみる”40冊の絵本を語る。
 エッツ作『もりのなか』は、大人だって不可思議なもう一つの国の子供に会えるファンタジー。
 読者を言葉と絵の両方から主人公の野鼠の詩の世界のとりこにするレオニ作『フレデリック』。
 さらに歴史家・網野善彦と画家・司修による『河原にできた中世の町』はさながら現代の絵巻物。
 童話集、詩画集、写真集などにも目を配り、絵本の魅力の世界を展開。どれも是非、手にとって心あたたかな時間をもちたくなる。

2006年07月25日

「第五福竜丸とともに」大石又七

 1954年3月、ビキニ環礁での水爆実験で「死の灰」を浴びた第五福竜丸。
 その乗組員が語る体験は、核の恐ろしさ、国際政治の非情さを告発する。
 23人の乗組員のうち11人が死亡。生き残った大石さんらもガンを病む。
 また軍事機密の隠蔽のため、日米両政府が被害者を無視して外交決着で「解決」を図ったことへの怒り……。
 東京・夢の島公園に設置されている「第五福竜丸展示館」の詳細な内容紹介も掲載されている。

2006年07月24日

「死者の森」鳴海章

 手首を切断された幼女の遺体が次々と発見された。
 松山市周辺で起きたこの不可解な事件を追う新聞記者・上沢は、解決が長引くなか、大胆にも紙面で犯人像を分析してみせる。
 だが、新たな犠牲者の遺体を支局ビルの貯水槽に投入され、批判の矢面に。
 さらに失意の中で知り合った女性の娘が行方不明になる。
 上沢の決死の追及が実を結ぶのか、犠牲者が増えるのか。殺人者の静かな狂気を浮き彫りにしていく筆致が鋭い。

2006年07月23日

「心にしみる天才の逸話20」山田大隆

 ダーウィンは最初、エジンバラ大学の医学部に入学したが、外科手術実習で卒倒。医者をあきらめ、ケンブリッジ大学に入り直す。
 そこで博物学に触れたことが後の進化論につながる。
 エジソンは不眠不休で仕事に取り組んだことで有名。ほとんど自宅に帰らなかった。
 新しい研究所が開設された日、薄汚れた風体のエジソンを、守衛は浮浪者と思い、入所を拒否した――ほかにキュリー夫人やガリレイなど20人が取り上げられている。
 こういう、こぼれ話風のものは大好物だ。

2006年07月22日

「価格の見える家づくり」山中省吾

 工務店や住宅メーカーなどの元請け会社を介することなく、依頼主が設計事務所と契約を交わし、各種施工業者への直接発注、建材の仕入れなど、すべての価格を明瞭にして家を建てる“オープンシステム”。
 「工費の無駄を省いた安くて賢い家づくり」が可能となる。
 このシステムを考案した建築家が経験をもとに、そのノウハウを紹介。
 30件の建築事例を収めた写真や間取り図を見ているだけでも楽しい。

2006年07月21日

「ハリエット・ジェイコブズ自伝」ハリエット・ジェイコブズ

 米ノースカロライナ州生まれの女性が、その半生を記した自伝。
 奴隷の子に生まれ、農場主の子とともに教育を受けた彼女は、成長してフリント医師に譲られる。
 待っていた性的虐待。逃亡――約7年の屋根裏生活、また北部自由州や英国への脱出行。
 執拗な追跡の果てに、若い弁護士に買い取られる形で「自由」を獲得する。
 その人生の軌跡そのものが“人種とジェンダー、性”について問いかけてくる。

2006年07月20日

「バッハの音符たち」池辺晋一郎

 TVでも軽妙な語り口の著者が、バッハの音符を検証、作曲技術を語る。
 《ゴルトベルク変奏曲》ではテーマと30変奏の骨組みを解明。
 「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ」を食卓の料理になぞらえて分析。
 「平均律クラヴィーア曲集」では現代の12音技法に通じる曲の展開を論じ……と“音楽の父”を縦横に語る。
 また「マタイ受難曲」では作曲者の心理に言及する等、クラシック愛好家ならずとも楽しめる。

2006年07月19日

「涙」乃南アサ

 昭和39年秋、東京オリンピックを目前に、婚約者の刑事が失踪した。
 彼の同僚の娘が暴行・殺害された現場に居合わせた痕跡を残して……。
 諦めきれない萄子は、彼を見かけたとの噂を聞いては追い求める。
 一方、恨みを抱く元同僚も彼を追う。先に見つけるのはどちらなのか。
 2年にわたる旅の果てに到達した一つの結論とは――。
 高度成長期の社会を背景に、衝撃的な真相解明まで一気に読ませる。

2006年07月18日

「話に花を咲かせましょう」神野秀雄監修

 学生たちが老人ホームで高齢者にインタビュー。
 そのやりとり15話を収録。
 例えば福田操さん(95)。士族の娘に生まれ、教師になる。
 当時としては珍しい恋愛結婚。名古屋で空襲に遭う。
 「今は何でも何やっとる時も楽しいです」
 また服部清さん(65)。
 「いつもあそこに座っている百歳のおばあちゃん、あの方は私の親友です」
 どの人にも不思議と心に響く言葉がある。年輪に裏打ちされた深みのような。

2006年07月17日

「パラサイト・レックス」カール・ジンマー

 原題は“寄生虫王”。
 最近は、免疫系で寄生虫の存在が適度な刺激になるとの研究成果も出ているらしい。
 寄生生物はヒトの進化のサイクルに深くかかわったと考えられている。
 とはいえマラリアで今も12秒に1人が死に、象皮病のフィラリア糸状虫に1億2000万人が苦しむ。
 寄生虫の“相手を利用して生きる”戦略を考察する先端の生物学リポート。

2006年07月16日

「天国への階段」白川道

 企業グループを率いる青年実業家・柏木圭一は財力を武器に、胸に秘めた復讐劇を着々と実行していた。
 だが達成を目前に、老刑事の執念から、殺人事件の捜査線上に柏木が浮上する。
 次第に解明される彼の半生。
 26年の時を隔てて明かされる真実とは?
 錯誤の故に、悲劇に悲劇を積み重ねてしまう主人公たち。
 金に翻弄される悲痛、人を思う哀切の織り成す異色作。

2006年07月15日

「地獄の静かな夜」A・J・クィネル

 「愛」がモチーフになった冒険小説短編集。
 ボスニア内戦後の国際法廷で、ペロは戦中に自分を拷問した男を人違いと証言した。
 やがて、男が微罪で短い刑期を終えて帰郷すると、ペロは妹と結婚していた。
 ペロは赦すと言うのだが、胸には秘めた策略が……。「想像力の広さを示したい」と、著者が自負するように、時代背景も筋立ても多彩な、表題作他6編が収録されている。

2006年07月14日

「シーズ ザ デイ」鈴木光司

 ヨットが南太平洋に沈んで16年。
 同乗していた恋人とともに助かった船越は、彼女が後にひそかに自分の娘を出産していたことを知る。
 母親に反発する娘は船越を頼るようになり、やがて、沈んだヨットの位置が判明した。
 沈没は本当に事故だったのか――抱き続けた疑問の回答を求めて、船越は娘に操船技術を教えて共に旅立つ。
 長編ミステリーではあるが、謎が明かされた時、爽快な青春小説だったと知れる。

2006年07月13日

「ダッシュ」内山安雄

 ダムに沈んだ故郷へ16年ぶりに帰省してみると、工事のため水を抜いた湖底から次々と白骨死体が。
 隆二の脳裏に少年時代の連続殺人の記憶が蘇る。
 アジア人労務者と村民の対立、ダム建設の利権争い……北海道の寒村の、激変しつつある環境で、むき出しになっていく人々の欲望がせめぎあい、闇の中へ消えていった。
 そして隆二も取り返しのつかない過ちを犯していたのだった。
 14歳の視点で描いた長編サスペンス。

2006年07月12日

「ピト・ペレスの自堕落な人生」ホセ・ルベン・ロメロ

 ボロ靴にボサボサ頭、花冠をかぶった主人公ペレスはメキシコの風来坊。
 教会侍者・薬剤師助手などをしながら各地を放浪、でたらめ説教・インチキ調剤、殺し以外なら何でもし、もらい酒のため自分の経験を面白おかしく語る。
 知り合いに大統領がいたり、メキシコ独立戦争に巻き込まれたりするが、ピカレスク小説(悪漢小説)の伝統通り、権威や権力を笑い飛ばす。
 1930年代のスペイン語圏ベストセラー小説。

2006年07月11日

「雪月夜」馳星周

 国境の街、根室。暴力団員となった裕司が東京から戻ってきた。
 幼なじみの家電商・幸司に、組の金2億円を持ち逃げした男・敬二を一緒に捜せという。
 敬二はロシア漁船で出国しようとしているらしい。
 幸司が心当たりを探りだすと、地元の裏社会の勢力が一斉に動き始めた。
 政治も経済も国境ゆえのきしみを内包した街に、息つぐ間もない追撃戦が展開していく。
 欺瞞と裏切りを真正面から見据えた、馳星周らしい骨太の長編サスペンス。だが、いろいろと目につくところがあるのも確か。
 「馳星周らしさ」が好きな人なら、それを割り引いても充分に楽しめるはず。

2006年07月10日

「インマイハンズ――ユダヤ人を救ったポーランドの少女」イレーネ・グート・オプダイク

 看護学生・イレーネ、17歳。
 その幸福な人生は1939年、ドイツ軍のポーランド侵攻で激変する。
 長い逃亡の果て祖国に帰った彼女は酷い虐殺に戦慄しつつも、遂に独軍将校の愛人となる道を選ぶ。生きるために。
 そして数々の狂気の嵐をかいくぐり、十数人のユダヤ人の命を救う。
 本書はその体験の口述を綴ったもので、その動機は、いまだに跋扈する“ホロコースト否定の亡霊”と戦うためだという。
 生きるということはきれい事だけではないということ。しかし、その中でも何か人のためになることを行いたい。
 様々なことを考えさせられる一書。

2006年07月07日

「聖の青春」大崎善生

 難病と闘いつつ、夢の実現に向かって壮絶に生き、29歳で亡くなった若き棋士・村山聖(むらやま・さとし)の生き方を描く。著者は将棋雑誌の元編集長。
 幼くしてネフローゼを患った村山聖は、病院のベッド生活の中で将棋と出会い、「名人」になる夢を描き努力の日々を。「A級八段」を獲得する。
 普通、人は死の影にたじろぐが、村山聖はそれを闘いへの強烈なバネへと変え、将棋一途に打ち込んでいく。
 陰で支えた肉親、師匠、友人の愛の姿も感動的だ。
 将棋を知らない人にも一読を勧めたい。

2006年07月06日

「サンチャゴに降る雨」大石直紀

 1973年、チリに独裁政権が誕生。
 ビオレタは10歳の少女、彼女の初恋の人ガルセスは14歳だった。
 米国へ脱出したビオレタは母国解放を主張する映画女優に育ち、85年、独裁者打倒を目指す偽装テレビ取材陣と共に帰国した。
 だが、まさに暗殺決行の瞬間、ガルセスが現れた。大きく変貌を遂げて……。
 89年の民主化回復、更に2001年へと物語は展開する。
 2人を軸に、チリ現代史の陰影を照射する迫真の歴史サスペンスだ。

2006年07月05日

「夜に沈む道」ジョン・バーナム・シュワルツ

 米国北部の田舎町を舞台とした長編スリラー。
 寂れた小道で十歳の少年がひき逃げされ死んでしまった。
 わきへ寄れと注意できなかった父親、息子を亡くした喪失感に沈む母親、そして逃亡しつつも罪の意識におののく加害者――心に開いた傷口が三者三様に広がっていく。
 父親が加害者を突き止めた時、一気に避け難い破局へと押し流されていく。
 平凡な日常の脆さを精緻な筆遣いで説得力満点に描き出した、完成度の高い作品。

2006年07月04日

「雨の鎮魂歌」沢村鉄

 生徒会長の一村和人の刺殺体が旧校舎で発見され、立て続けに校長室放火など異常な事件が起こる。
 田舎町の中学校に動機や犯人をめぐる憶測が走る。生徒会の副会長・古館が何かを隠しているようだ。
 彼らを仲間だと思っていた徹也は無力感にいらだちながらも、仲間との心の絆を取り戻そうと、事件に挑む。
 思春期の心の揺らぎや思いやりが、謎解きの糸口を遠ざけてしまう、巧妙な仕掛けを組み込んだ異色の長編ミステリー。

2006年07月02日

「慚愧の淵に眠れ」松本賢吾

 元警官で元遊び人、そして今は墓地の納骨作業員の原島恭介。
 そんな彼を昔の仲間が突然訪ねてきた。
 用件も話さず帰った翌々日、彼は溺死体で発見される。
 事件の匂いをかいだ原島は周辺を洗いはじめるが、なぜか警察はかたくなに自殺と断定しようとする。
 警察官の経歴を持つ著者ならではの、ユニークな視点から警察の腐敗をつく、屈折した中にも筋の通った正義漢を生み出した、密度の高い長編ハードボイルド小説だ。

2006年07月01日

「鬼花葬」東田真由子

 人間の邪念・邪気を食らい、人間の存在を脅かす「鬼」を、数百年間にわたって封じてきた真城家。
 その真城家の娘・玉綾が、王鬼の息子を愛してしまったことから起こる愛憎渦巻く復讐劇を、輪廻転生をからめて描いた怪奇幻想小説。
 因縁づけられた真城家にまつわる人々の魂の救済を通して「生と死」を見つめ、加えて、「愛」の切なさと「命」の浄化をうたいあげる。
 みずみずしい感性にあふれる作品だ。
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プロフィール
etacky エタッキー
 地方在住者。
 若干、活字中毒気味。
 ただし読書速度は速くはないので、気ままに読み進めています。
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