イギリスの女性ジャーナリストであるギッタ・セレニーが、ホロコーストに携わった絶滅収容所長・フランツ・シュタングルを獄中で70時間にわたってインタビュー。
綿密な補足取材を加えて1974年に出版したのが本書「
人間の暗闇―ナチ絶滅収容所長との対話
」。
日本では、アウシュビッツなどの「強制収容所」が有名だが、シュタングルは、ユダヤ人を殺戮するためだけの目的で建設された計4カ所の「絶滅収容所」のうち2カ所の所長を歴任。
まさにホロコーストの現場責任者であり、直接当事者である。
ガス室を使った大量殺戮「ラインハルト作戦」の犠牲者は、150万人とも言われる。
なぜ人間があのような行動をとることができたのか?――この疑問はそのまま“人間の良心”が、戦時下という極限状況において、どのように作用し、どのように妨げられたかを見つめることだ。
インタビューを読み進むうち、シュタングルは明らかに良心をもった人間であり、仕事を断れば自分が殺されるかもしれないという追い込まれた状況で任務を遂行していたことが分かり、心苦しく、何ともやり切れない思いになる。
ホロコーストの直接当事者との対話を通して人間心理を掘り下げた貴重な一書だ。