つれづれっぽく読書雑記~気ままにブックレビュー

「気ままに書評・ブックレビュー」のカテゴリーページ。
日ごろから雑多に読んでいる本・書籍について、読書感想文とか雑記とか、つれづれ気ままに書評・ブックレビューを記していきます。

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2010年10月18日

「狙われたキツネ」ヘルタ・ミュラー

 1989年12月、チャウシェスク政権が崩壊。
 「狙われたキツネ」は、革命前夜のルーマニアを描いた作品。
 以前にも読んでいたが、ヘルタ・ミュラーが昨年、ノーベル文学賞を受賞したこともあり、新装版が発刊されたので再読。
 ふたりの若い女性、教師のアディーナと工場で働くクララの姿を通して、独裁政権下の日常が描かれる。
 上司に睨まれたアディーナは秘密警察の影に怯える。一方、クララの愛人は秘密警察の男。
 ここでは誰もが猟師で、誰もがキツネになる。
 栄養失調でイボだらけの指をした子どもたち。一方で独裁者は毎朝新品の服を着る。その不条理の世界では、絶望が風景まで変容させる。
 大輪のダリアはキッチンや寝室を監視する。公園の空気にも恐怖がたちこめ、空はこの街を捨てて遥かな上空に出ていく。ひからびた日常を生きるうち、この国がドナウ川で遮られ、自分たちが見捨てられていることも当然と思えてくる。
 不幸と絶望が、現実味いっぱいに描かれる。
 独裁者は処刑されるけども、それすら「気にすることはない」。何も変わらないのだから。
 この言葉に、独裁者が消えても、われわれ自身の中にも、その残酷さの種はあるのだと指摘されているように感じ、幸福とは、豊かさとは何かと考えずにはいられない。

2010年05月10日

「読むことは旅をすること―私の20世紀読書紀行」長田弘

先日、朝のワイドショーで取り上げられていたが、今、著名人の墓が、一部で流行っているらしい。
この「読むことは旅をすること」は、海外の詩人や文学者などにゆかりの地を訪ね歩いた読書にまつわる紀行文。直接・間接に戦争や革命の犠牲となった人々も多く、彼らの墓を探し訪ねる旅を綴った文章も多数収められている。
つまり、紀行文とは言っても、「戦争と革命の世紀」と呼ばれた20世紀に生き、国家の暴力に抗して言葉の力で闘った人々の足跡をたどる旅だ。
国家や時代とどう向き合うべきか――文学者たちの鎮魂とともに、今に生きる我々への問いかけでもある。

2008年10月03日

「ひかりの剣」海堂尊

チーム・バチスタの栄光」でおなじみの東城大と帝華大が舞台……と言っても、医療面ではなく、医学生の剣道大会優勝をめぐり、積年のライバル関係にある東城大の速水晃一と帝華大の清川吾郎の二人が織りなす、剣道一直線の青春ドラマ。
なので、この「ひかりの剣」だけを読んでも、十分に楽しめる。
だが、速水の「ジェネラル・ルージュの凱旋」と清川の「ジーン・ワルツ」を読んでいれば、二人の未来像との対比で、さらに楽しい。

2008年06月23日

「タルト・タタンの夢」近藤史恵

タルト・タタンの夢」は、下町の小さなフレンチの店が舞台のミステリー連作短編集。店で話題にのぼった謎を、無口なオーナー・シェフが料理を手がかりに鮮やかに解き明かしていく。7編が収録されている。
 常連である西田さんは、なぜ体調を崩したのか?
 甲子園出場をめざしていた高校野球部で起こった不祥事の真相は?
 お客の恋人は、なぜ最低のフランス料理をつくったのか?
 従業員たった4人という小さな店で出される料理や飲み物の描写も、ビストロで働く人たちの姿も、ともに温かく、ほのぼのとした安らぎを与えてくれる一書。

2008年05月16日

「私は日本のここが好き!」加藤恭子編

 この「私は日本のここが好き!―外国人54人が語る」では、副題にもある通り、54人の外国人が、自分が日本を好きな理由や体験を語っている。
 例えば中国から日本に来て20年という姚南さんは、電車の中で後ろの女性の靴先を踏んでしまった時のエピソードを。すぐ謝ると、その女性はほほ笑んで「靴先は空いているから大丈夫ですよ」と。
 また、オーストラリアのスコチッチさんは、ある春、モノレールを利用した。同じ年の秋にまた来日した時、春の利用時にチケット代が過払いであったと150円入りの封筒を渡されたという。
 やはり日本が好かれるのは、美しい自然・景色・歴史はもちろん、繊細な心のあり方だと気づかされる。
 国際情勢の中で、必ずしも日本の立場は盤石ではない。反日感情をぶつけられる場合も多い。
 そこにはやはり「私は日本のここが嫌い!」という原因がある。
 好きな理由と、嫌われる原因。どちらも直視して、やっとそこから本当の人間関係、国家関係が築かれていく。
 忙しい現代社会の中であっても、少し足を止めて、自分がよって立つ場を顧みることも必要だと思う。
 本書は、そのきっかけにふさわしい一書だ。

2008年04月06日

「ママ、笑っていてね」猿渡瞳/猿渡直美

 家族の愛に包まれ、力強く生きた娘の姿を母が綴った闘病記。
 11歳で骨肉腫を患い、2年後、平成16年9月に他界した猿渡瞳さん。
 病名を告知されても、たくましい生命力と過酷な治療にめげない精神力で、3度も転移を乗り越えた。
 周囲への気配りと感謝の絶えない少女は、病魔にさえ“命の尊さを教えてくれた。ありがとう”と。その思いを込めた作文「命を見つめて」は死後、全国作文コンクール優秀賞に輝いた。
 幼い命の死は、より一層もの悲しい。
 しかし、「病」や「死」が、そのまま「不幸」ではないという、その小さくも力強い声を、私たちはどう受け止め、そしてどう「生」を充実させていくのか。
 「生きること」が、どれだけ素晴らしい可能性のかたまりなのかを示してくれる。本書「ママ、笑っていてね ガンと向き合い、命を見つめた娘の贈り物」は、そんな実の詰まった一冊だった。

2008年04月05日

「田んぼで出会う花・虫・鳥」久野公啓

 これから、だんだんと水が温んでいく季節。早いところでは、4月中旬から、水田への水入れが始まる。
 本書「田んぼで出会う花・虫・鳥―農のある風景と生き物たちのフォトミュージアム」を片手に郊外へ行き、水田の周りを散歩するなんて、かなり贅沢な時間かもしれない。
 「田んぼ」には、さまざまな生き物が住んでいる。
 カエル、シギ、カメムシ、トンボ、ゲンゴロウ、ホタル、ガン、さらには、可憐な花を咲かせる植物たち……。
 そんな四季折々の命の営みを、美しいカラー写真で紹介してくれている。
 例えば、のんびり翼を休める渡り鳥、アカガエルの産卵、コオイムシの孵化の場面などなど。
 1つ1つの貴重な風景を、是非、後世に伝えたいと切実に思う。

2008年04月02日

「ぶらりあるき ミュンヘンの博物館」中村浩

 本書「ぶらりあるきミュンヘンの博物館」を読んで、初めて知ったが、ドイツにはユニークな博物館が多いらしい。
 例えば「白バラ記念館」――反ナチ運動の青年グループ「白バラ」を記念する展示施設。
 また「中世犯罪博物館」――パンの目方をごまかしたパン屋を処罰する檻や、不貞の女性を罰する道具など3000点以上を展示しているらしい。
 活版印刷術の発明者にちなむ「グーテンベルグ博物館」には彼の印刷工房が復元されている。
 こんなさまざまな博物館が116館も紹介されている。

2008年03月22日

『歴史にみる「日本の色」』中江克己

 本書『歴史にみる「日本の色」』は、卑弥呼の古代から江戸期まで、日本人と色とのかかわりを、興味深いエピソードとともに紹介する。
 例えば源平合戦で、源氏は白、平氏は赤の旗を掲げていた。
 当時、武士は布を白地のまま使うのが普通だった。何かを書くにも便利だからだ。
 その「白」に対して、平氏は敵味方の峻別のため分かりやすい「赤」を用いたらしい。
 また、黄色は古代には、中国の影響で、尊い色とされたが、持統天皇の頃には庶民の色になった。そこには、黄の染料が豊富だった事情もあるなど。
 「色」に込められたイメージや思いは、時代によって移り変わる。
 それを眺めるように読むだけでも歴史の楽しさが感じられる。

2008年02月15日

「キメラの繭」高野裕美子

 高野裕美子氏が今月10日に逝去されました。
 謹んでご冥福をお祈りしつつ、著書である「キメラの繭」のレビューを再掲させていただきます。

 2009年冬の東京。
 大学のウイルス研究室に勤める立科涼子は、不可解なアレルギー症状で急死した弟の死の原因を究明しようとするが、実験用のマウスに同様の症状が現れる。
 餌を作った世界最大のバイオ企業に連絡を取った直後、研究室に何者かが侵入した。
 一方、街ではカラスが凶暴化し、通行人を襲い始めた。
 二つの異変の間に関係があると見た涼子は、必死に立証に取り組むのだが……。
 リアリティーにあふれるサスペンス。

2008年01月24日

「1プードの塩」小林和男

 元NHKモスクワ支局長として“奥深い”ロシアの魅力を語り続ける著者。
 ゴルバチョフ元ソ連大統領、チェリストのロストロポーヴィッチなどの著名人から官僚、知識人、市井の人々まで、ソ連崩壊からロシア誕生という混乱の中で出会った数十人について愛情を込めてつづる。
 その人々の喜びや苦しみの背景にある「国家の姿」も見えてくる。
 激動期を懸命に生きた人々の貴重な記録としても読めるエッセイだ。

2007年12月23日

「ブルゴーニュ公国の大公たち」ジョゼフ・カルメット

 14世紀のフランス東辺はヴァロワ家の支配下、4人の傑出した大公が出た。
 フィリップ大胆公、ジャン無怖公、フィリップ善良公――彼らは彫刻・建築など中世文化を花開かせた。
 婚姻によりネーデルランドの商業圏に手を伸ばした後、英国と同盟し本国ルイ11世に対抗する。
 だが、シャルル突進公に至って王家との争いに敗れ権勢を失う。
 ドイツやスペインも巻き込んだ百年戦争の全貌を、克明に描き出す。
 歴史書だが、非情にわかりやすい文章で飽きさせません。

2007年11月14日

「夜明けの街で」東野圭吾

 東野圭吾が描く恋愛物って、どんな感じだろう? そんな疑念を持ちつつ手にしたのが本書「夜明けの街で」。
 建設会社の主任・渡部は妻と娘がいるごく普通の、しかし小さな幸福を感じている中年男。
 その一方で、会社の部下・仲西秋葉と一線を越え、不倫の恋に落ちる。
 だが彼女は、時効間近の殺人事件の容疑者だった。
 両親は離婚し、母親は自殺。彼女の横浜の実家では、15年前、父の愛人が殺されたのだ。
 ずるずると深まっていく二人の関係。
 彼女は「時効になったら話したいことがある」と言う。
 果たして事件の真相とは?
 時に滑稽な中年男の恋愛感情を中心に、巧みな展開で読者を振り回してくれる。こんな東野圭吾も、たまには良いかもしれない。

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2007年10月24日

「われらはみな、アイヒマンの息子」ギュンター・アンダース

 ユダヤ人哲学者であり、反核運動家でもある著者ギュンター・アンダースが、アイヒマンの息子に宛てた公開書簡を単行本化したのが本書「われらはみな、アイヒマンの息子」。
 ナチスドイツでユダヤ人大虐殺を遂行したアイヒマン。
 凡庸とも言える一官吏が、何故あれほど非人間的になり得たのだろうか?
 著者は「人間は誰しも、想像力の限界を超えた現実に遭遇すると、思考停止に陥るからだ」と述べている。
 振り返って現代、「核抑止論」をはじめ、核兵器の存在を認める人たちにも“内なるアイヒマン”が潜んでいる。

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2007年10月10日

「いっしん虎徹」山本兼一

 越前で名のある甲冑鍛冶・長曽祢興里は、30代半ばを過ぎて江戸の刀鍛冶に入門。
 名を「虎徹」と改め、自ら鍛え上げた当代一の兜を叩き斬る刀、しかも「気品と尊厳」を備えた刀作りに全身全霊を込める。
 虎徹と名乗ったのは、虎と見誤って石を射抜いた故事から「石虎将軍」と呼ばれる中国の武人・李広の執念をわがものにしたいとの思いから。
 本書「いっしん虎徹」は、鉄と格闘し、日本一の名刀を鍛えた男の波乱と情熱の物語だ。

2007年09月21日

「おねだり女房」宮本昌孝

 “縁切り寺”と呼ばれる鎌倉の東慶寺を舞台にした、一風変わった時代小説「おねだり女房 影十手活殺帖」。
 4編の短編時代小説が収録されている。
 タイトルにもなっている「おねだり女房」は、義母のいびりに耐えきれず、これまで7度も駆け込んでいる浅草にある銘酒屋の嫁しまのこと。
 確かに義母は厳格だが、いびりと言っても、それはお嬢様育ちの嫁しまから見た話で、実際は些細なことで駆け込みを行い、その度に夫や義父から「おねだり」を勝ち取って、嬉々として浅草に戻る。
 7度目の駆け込みから半年が経って、また夫が迎えに来るが、今回、しまは寺には来ていなかった。
 寺の御用宿を勤める和三郎と、人のよい寺役人・野村市助のコンビが真相を探るのだが……。
 基本的には人情話だが、小気味の良い展開で、サッパリとした読後感が好感触。

2007年09月01日

「ハゲタカ」真山仁

 NHKでドラマ化され、再放送までされています。
 かく言う自分自身も、ドラマを観てからこの原作「ハゲタカ」を手に取った1人。
 ただ、最初に言っておくべきでしょう。ドラマと原作は、まったく違う展開をたどります。
 ドラマはドラマで引き込むものがありました。民放には作れないドラマだなと。
 登場人物については、実力ある俳優陣が演じただけに、個々については淡々と描かれる原作より魅力的だったかと思います。
 現にこうして原作を手に取らせることに成功しているわけで、それはそれで大したことです。
 それでもやっぱり、原作に沿ったドラマも観てみたい。

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2007年08月27日

「UNBOWEDへこたれない~ワンガリ・マータイ自伝」ワンガリ・マータイ

 まさに「へこたれない女性」――このワンガリ・マータイさんの激動の半世紀を読んで、不屈の精神をもっていることを実感した。
 ケニアで部族差別と女性差別に遭い、就職を拒絶される。
 政治家だった夫との離婚裁判では、裁判官を批判した罪で投獄された。
 木を植えただけで反政府運動家扱いされ、暴漢に殴られ流血。
 選挙に立候補すれば、デマと妨害で落選。職も追われ、3人の子供を抱えて路頭に迷うことに。
 それでも彼女はへこたれなかった。
 「忍耐強く、ねばり強く、そして全力で、絶えず前進する姿勢こそが民主主義」だという確信に貫かれた人生。
 その確信は、アメリカ留学中に学んだ公民権運動にもとづいているという。
 さらなる原点は、彼女の「母」の存在にさかのぼる。
 価値観を娘に押し付けることは一切せず、穏やかに娘を見守った「母」。
 「もったいない」という言葉に価値を見いだしたマータイさんの精神的骨格には、飾らない実直な「母の心」が貫いているのだろう。
 超人的に思える彼女だが、その心の核の部分は、私たち凡人にも、十分理解し共有できる。
 その共感から、平和も環境も、そして社会も改めていけると信じたい。
 本書「UNBOWEDへこたれない~ワンガリ・マータイ自伝」は、そう思わせてくれる一書だ。

2007年07月12日

「魔性」渡辺容子

 分類はミステリー。しかし、本書「魔性」は成長の物語だと思う。
 仕事を辞め、引きこもり状態になった珠世。
 偶然、高校生のありさと出会い、川崎市のプロ・サッカーチームのサポーターの仲間入りをした。
 現実社会との、たった一つのつながりが、サポーターとしての活動だった。
 だが、応援を約束していた試合当日に、ありさが殺されてしまう。
 しかも、ありさの携帯から仲間たちに、嫌がらせのメールが届く。
 犯人捜しを始めた珠世は、サッカーを接点とした仲間たちに、意外な裏面があることを知っていく。
 表と裏の葛藤の中で、人は生きている――そのことを実感し、自らの生活を顧みる珠世。
 事件の進展とともに、次第に心を鍛えられ、成長していく姿に励まされる。

2007年06月28日

「夏雲あがれ」宮本昌孝

 「剣は、抜かぬが最善、抜いても仕掛けぬが次善、このほかに善はなし」――長沼正兵衛が筧新吾を諭すこの言葉が、何故か心に残っている。
 前回紹介した「藩校早春賦」でも述べた通り、NHK時代劇「夏雲あがれ」に惹かれて手に取ったのだが、青春活劇の中に、いぶし銀の輝きを感じたのがこの言葉だったのか。
 周りが変化していく状況で、自分一人が大人になれないと悩んでいた新吾だから、この場面の後も、真っ直ぐな性格のまま、悩みながらも刀を振る。
 剣を抜かずに最善の道を歩むには、とてつもない人間としての器と力が必要なのだ。
 その力をつけ、器を広げるために、新吾たちは青年期を全力疾走で駆け続けている。そんな感じがする。
 志保の「関屋の帯」のエピソードも、女心が彩りを添えて、いっそ爽やかだ。

2007年06月26日

「藩校早春賦」宮本昌孝

 NHKで現在放映されている時代劇「夏雲あがれ」が、思いの外よい出来で、原作を読みたいと探していました。
 直接の原作は同名の著作ですが、その前作がこの「藩校早春賦」です。
 大きくは話の流れもあって時系列になっていますが、各章それぞれで読み切りとも感じます。
 藩校の剣術所教授方を決める御前仕合を描いた「学びて時にこれを習う」をはじめ、続刊の「夏雲あがれ」で触れられるエピソードも多く、先に本書を一読しておくと、より楽しめます。
 主人公・筧新吾の性格そのままに、ストーリーも、さわやかに青春の旅路を駆け抜けていきます。

2007年05月27日

「もったいない」プラネット・リンク編

 本書「もったいない」の編者となっている「プラネット・リンク」は、ケニアの環境副大臣マータイさんに共鳴する有志の集まり。
 冒頭に“もったいない”の精神と、3R(リデュース=削減、リユース=再使用、リサイクル=再利用)を訴えるマータイさんの言葉が掲載されている。
 それに続けて、包装ゴミ、食料廃棄、家電機器の廃棄、水のムダ使い、軍事費など19の例について節約を促している。
 約80年前にハワイに渡った日本人移民による「着物」の再利用が、アロハシャツのルーツであるなど、ちょっと楽しいマメ知識も。
 対訳英文も付いている。

2007年04月20日

「名もなき毒」宮部みゆき

 社内報編集者の杉村三郎は、トラブルを起こした女性アシスタントの身上調査のため、私立探偵を訪れる。
 そこで出会ったのは、連続無差別毒殺事件で祖父を亡くした女子高生。母親が容疑者扱いされているという。
 杉村は嫌疑を晴らす手伝いを買って出るが、真相がつかめないまま、自らの家族を不快な事件が見舞う。
 この「名もなき毒」は、「全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本 2007年本屋大賞」で第10位に入賞した、人の心に潜む「毒」が生み出す恐怖を描く長編ミステリー。

2007年04月18日

「水上のパッサカリア」海野碧

 自身の過去を秘めて山中の湖畔に暮らす大道寺勉の前に、昔の稼業「始末屋」の仲間が現れる。
 半年前に事故死した同棲相手・片岡菜津は、実は謀殺されたのだというのだ。
 思いもよらぬ事実を知らされ、勉は最後の“始末”に加わる。
 だがそこには巧妙なカラクリがあった……。
 本書「水上のパッサカリア」は、緻密な描写力が評価され、第10回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞したハードボイルド長編。

2007年03月16日

「人間の暗闇―ナチ絶滅収容所長との対話」ギッタ・セレニー

 イギリスの女性ジャーナリストであるギッタ・セレニーが、ホロコーストに携わった絶滅収容所長・フランツ・シュタングルを獄中で70時間にわたってインタビュー。
 綿密な補足取材を加えて1974年に出版したのが本書「人間の暗闇―ナチ絶滅収容所長との対話」。
 日本では、アウシュビッツなどの「強制収容所」が有名だが、シュタングルは、ユダヤ人を殺戮するためだけの目的で建設された計4カ所の「絶滅収容所」のうち2カ所の所長を歴任。
 まさにホロコーストの現場責任者であり、直接当事者である。
 ガス室を使った大量殺戮「ラインハルト作戦」の犠牲者は、150万人とも言われる。
 なぜ人間があのような行動をとることができたのか?――この疑問はそのまま“人間の良心”が、戦時下という極限状況において、どのように作用し、どのように妨げられたかを見つめることだ。
 インタビューを読み進むうち、シュタングルは明らかに良心をもった人間であり、仕事を断れば自分が殺されるかもしれないという追い込まれた状況で任務を遂行していたことが分かり、心苦しく、何ともやり切れない思いになる。
 ホロコーストの直接当事者との対話を通して人間心理を掘り下げた貴重な一書だ。

2007年03月08日

「自然発見ガイド 野鳥―しぐさでわかる身近な野鳥」市田 則孝ほか

 これから温かくなって、町中や公園などで鳥を見かけることが多くなる。
 しかし、種類やどんな鳥かまではなかなかわからないもの。
 そんな時に役立つのが本書「自然発見ガイド 野鳥―しぐさでわかる身近な野鳥」。
 身近な野鳥177種を観察するのに、とても便利なガイドブックとなっている。
 細密画と写真がふんだんに使われ、種類と名前を知るのに一目瞭然。
 さらには求愛や飛び方や疑似攻撃などが分かりやすく解説され、鳥たちの行動の意味がよく分かる。
 66種類の鳥のさえずりを収録したCD付き。

2007年03月05日

「日本の歴史をよみなおす」網野善彦

 「百姓は農民ではない」
 「日本は孤立した島国ではない」
 「日本人は単一民族ではない」
 「東日本と西日本はもともと違う文化圏である」
 ――戦後、ステレオタイプ化された保守主義と進歩史観が横行するなかで、新視点からの問いかけを発し続ける歴史学者・網野善彦氏。
 本書「日本の歴史をよみなおす」を通して「歴史を学ぶことは楽しい」ということを実感できる。
 新しいことに触れる楽しさ。「知る」ことに対するワクワクするような高揚感。
 年表など傍らに投げ置いて、過去という闇の中に埋もれてしまった歴史というドラマを堪能できる。
 社会に出てから歴史を眺めなおすと、学生の頃には感じなかった全く新しい発見、驚きがある。
 そんなあれこれが散りばめられた珠玉の一冊だ。

2007年03月01日

「天下布武 夢どの与一郎」安部龍太郎

 先日紹介した津本陽の「覇王の夢」に続いて織田信長が登場。
 ただし本作は、信長に仕える長岡与一郎(後の細川忠興)に光を当てる。
 西欧列強に比肩する日本を創り出そうという主君・信長の「夢」実現へ、仲間の万見仙千代、荒木新八郎とともに命を燃やす与一郎。
 しかし、足利義昭や朝廷と対立する信長は、本能寺の変で横死してしまう。
 その陰には謎の勢力「用捨一揆」の存在があった。
 信長への忠誠と、固い友情で結ばれた与一郎らの命運は……。
 新しい視点から戦国時代の動乱を描いた意欲作。

2007年02月26日

「ひょうたん」宇江佐真理

 父の遺した骨董店を賭け事で潰しかけた音松。
 将来を誓い合った男に捨てられたお鈴。
 そんな二人が寄り添って立て直した古道具屋に、ある日、浪人から一振りの刀が持ち込まれた。
 調べてみると、最上大業物の名刀だった。音松は浪人に1両を融通した……。
 底抜けにお人よしの夫婦が営む古道具屋を舞台にして、江戸に息づく熱い人情と心意気を、情緒豊かに描いた連作6編。
 今の世の中、「人情」に触れてほっと一息つくほど救われた気持ちになる時はない。
 是非、一読をお薦めする。

2007年02月24日

「覇王の夢」津本陽

 妥協を許さない現実主義と底知れぬ猜疑心で、天下統一に突き進んでいった織田信長。
 世界は大航海時代。
 その時代の空気の中で、信長は未曽有の構想を抱く――それは天下統一から海外制覇への道だった。
 天正10年6月2日、信長が朝廷へ向かう4時間前に起きた光秀の謀叛。
 これがなければ、彼は朝廷に暦の改定を要求し、時間をも支配したかもしれない。
 乱世に生きた英雄の夢を描き出す筆致に、読む者の胸まで躍る。

2007年02月22日

「鬼ともののけの文化史」笹間良彦

 中国では「鬼」と言えば死者の霊魂・亡霊のこと。
 このことからも分かる通り、この文字は亡霊の象形だ。
 この世から隠れたものだから「隠」という。
 では角をはやし、鉄の棒を持つという造形はどこから来たのか。
 死者の幽魂を鬼(隠)とする中国の思想とインドの羅刹・夜叉の図像が習合したものと著者である笹間良彦氏は考える。
 奈良・平安、動乱期、鎌倉・室町以降と、それぞれの時代の「鬼」「もののけ」の変遷・変化を眺め、その民俗学的な意味を探る。
 豊富な図像を見るだけでも楽しい一書。

2007年01月20日

「空飛ぶタイヤ」池井戸潤

 トレーラーから外れたタイヤが歩道を歩いていた主婦を直撃。死亡事故となる。
 メーカーは整備不良が原因と発表し、警察は運送会社の社長・赤松を立件しようとする。
 赤松は銀行からも取引を断られ、小学生の息子までもが、いじめの対象にされる。
 だが赤松は車両自体に欠陥があったと信じ、名門自動車会社に挑んでいった。
 大財閥の内幕を、臨場感たっぷりに描く社会派サスペンスだ。

2006年12月18日

「デッドライン」建倉圭介

 日系二世であるミノル・タガワは、ロスアラモスで原爆が開発中であり、しかも日本が標的になっていると知る。そして原爆投下前に日本政府に敗戦を受諾させようと、日本への密航を図る。
 一方、機密漏洩を察知した米軍は、ミノルを取り押さえようと追跡を開始。
 アラスカ、千島列島と、手に汗握る逃避行が続く。
 ミノルの熱意は果たして実を結ぶのか……。
 ストーリーの疾走感が心地よい。

2006年11月04日

「私が死ぬと茶は廃れる」三鬼英介

 副題に「知られざる粋人・金津滋の生涯」とある通り、著者・三鬼英介はお茶に関する本を書くための取材で出雲に赴き、金津滋という人物を知る。
 小規模な茶の研究会「紅雪会」の中心的存在だ。
 博覧強記。四、五千の茶道具を所有、書画、料理をはじめ、何をやらせても玄人裸足。制度化した茶道とは対極にある自由な茶を体現している。
 金津へのインタビューを含め、茶を探究する著者に同行している気分にさせてくれる文章が魅力的。
 ちなみにタイトルは、千利休晩年の言葉「(私の死後)十年ヲ過ギズ、茶ノ本道廃ルベシ」からとられている。

2006年10月01日

「月が100回沈めば」式田ティエン

 バイト仲間のアツシが失踪、耕佐は中学生連続誘拐事件との関連を疑う。
 アツシは高一だが、小柄なので中学生と間違われた可能性もあるからだ。
 同じバイト先の女子高生・弓と、職場のある渋谷の若者に聞き歩いて彼の実家を探し当てたが、家族は失踪を否定する。
 耕佐たちは、ならばとバイト先の会社に秘密がないかと潜入する。
 事件を通し成長していく耕佐の姿がたくましい。
 ミステリー仕立ての青春小説だ。

2006年09月28日

「さくら草」永井するみ

 ラブホテルの駐車場で女子中学生の死体が発見される。
 やがて多摩川の河川敷で、やはり女子中学生が死体で見つかる。
 被害者に共通していたのは、人気の高級ジュニアブランドの衣服を身に着けていたこと。
 ブランドイメージを守ろうと奮闘する女性幹部と、ファッションに詳しいことから捜査本部に抜擢された女性刑事。
 この2人の視点で展開する物語は、意表をつく結末を迎える。

2006年09月26日

「絵で見て楽しむ! 江戸っ子語のイキ・イナセ」笹間良彦

 「五つ屋」って何?
 質屋では聞こえが悪いので「七つ屋」となり、次に「一六屋」また「五二屋」に、更に「二」を略して「五つ屋」となったという。
 「六日知らず」とは?  日数を指折り数えると五日で手を握った形になり、六日以降は指を開くところから、握った物は離さぬケチへの陰口。
 ほかに「半畳を入れる」「白鼠」「鼬の道」など、江戸期から使われた言葉を、イラスト入りで解説してくれている。
 楽しくて、そしてちょっとためになる一書。

2006年09月17日

「歴史探訪を愉しむ」童門冬二

 北海道・苫小牧市の郊外に「八王子千人隊の墓地」がある。
 八王子は中山道から江戸への最初の入り口、徳川幕府にとって、戦略上、重要な地点であった。
 江戸守護のために構成された千人隊。
 寛政期、松平定信は北方の守りのため、その一部を北海道に移住させた。
 彼らは開墾を始めたが、厳しい気候の中で次々と餓死していった。
 北海道から沖縄まで、24の由縁の地に歴史と人を訪ねた紀行エッセー。

2006年09月15日

「中国『野人』騒動記」中根研一

 中国湖北省の原生林地帯・神農架に生息するといわれる「野人」。
 未確認生物だが、驚くことに、野人と人間のハーフ「雑交野人」が存在するというニュースが1997年、中国全土を駆けめぐった。
 著者は、原生林での野人探索、関係者へのインタビューを敢行。
 一連の野人騒動を、ドキュメント・タッチで再現していく。
 謎とロマンに満ちたノンフィクションだ。

2006年09月13日

「絆」河野順子

 北極点から、生まれ故郷の愛媛まで、全行程1万5000キロを歩き抜く――壮大な計画の途次、冒険家・河野兵市は、ついに帰らぬ人となった。
 本書は、その妻による回想記。
 金を貯めては、高峰・秘境に挑み続けた夫。
 その心を理解しつつ、無事を祈り、束の間の団らんは努めて自然体で……。妻として生きた14年、それは“日々覚悟”の歳月だった。
 家族の関係が希薄な昨今、河野さん夫妻と子らの絆は、鮮烈なまでに胸を打つ。

2006年09月09日

「死刑執行人」アレクサンドラ・マリーニナ

 モスクワ市警のアナスタシヤがたぐいまれな分析力を駆使して難問を解く「モスクワ市警殺人課分析官アナスタシヤ」シリーズの第3弾。
 今回、アナスタシヤは刑期を終えて出所する男をモスクワまで警護する任務を与えられた。
 だが、その直後から不自然な“自殺”が続発する。
 連続殺人の疑惑を感じた彼女は、資料の山から真実を解く鍵を拾いだすが……。
 旧KGB以来の巨大な闇を背景に描く、ロシア・ミステリー界の女王の筆致が冴える。

2006年09月08日

「孤独な殺人者」アレクサンドラ・マリーニナ

  「モスクワ市警殺人課分析官アナスタシヤ」シリーズの第2弾。以前、「盗まれた夢」を紹介した。
 アナスタシヤのもとへ弟のアレクサンドルから久しぶりの電話が。
 ガールフレンドのダーシャと訪れた友人宅が、次々と盗難に遭っているという。
 彼女が泥棒を手引きしているのではないかと疑うアレクサンドルから、極秘に捜査してほしいと頼まれる。
 ダーシャの周辺には、担ぎ屋グループの影が。
 さらにその担ぎ屋を追う謎の男……。
 いくつもの殺人が錯綜、遺族の切実な思いと法律の狭間で苦悩するアナスタシヤだが、決断を下す。

2006年09月07日

「いのちの太鼓」村上功

 生来の強度の難聴。4歳の時に出会った太鼓の響きに、初めて“音”を実感した。
 その“音”に魅せられてバチを振り続け、遂に全国和太鼓フェスティバルで第1位(文部大臣奨励賞)に輝いた青年が、自らの青春を語る。
 中学時代、耳が原因で「いじめ」にあい、不登校、自殺未遂……。だが、恩師や両親の支えで立ち直っていく。
 苦しみに決して負けない生き方が、勇気と希望を与えてくれる。

2006年09月06日

「神々の戦争」大高未貴

 ペシャワールでは、ブルカをかぶり、難民に扮してキャンプに潜入。パキスタン人も近づかない危険で汚い所だ。
 物乞いで命をつなぐ実態を取材している。
 カブールでは、一般家庭の訪問を禁じられたが、監視の目を潜り、トイレを借りるふりして民家に入り、就業を望む女性の声を聞いた。
 アメリカの報復攻撃前後のアフガニスタンと関連諸国を駆け回り、戦争の悲惨さをリポートしている。

2006年09月04日

「20世紀名言集 科学者/開発者篇」ビジネス創造力研究所編

 「思考とは、驚きからの絶えざる飛翔である」(アインシュタイン)。
 5歳の時、磁石を手にし、見えざる自然の力を確信。好奇心は逝去まで絶えなかった。
 「とにかく、考えてみることである。工夫してみることである。そして、やってみることである。失敗すればやり直せばいい」(松下幸之助)。
 全く売れない新案のソケット。彼はその理由を徹底研究、売れるための工夫を続けた。
 97人の言葉と背景を紹介する本書。  思わず唸る言葉ばかり。

2006年08月30日

「国境」黒川博行

 関西一円の暴力団を相手に巨額の詐欺を働いた男が、北朝鮮に逃げた。
 組の命を受けた桑原と、半島に人脈のある建設コンサルタントの二宮が平壌へ飛ぶ。
 だが、男は辺境の街に姿をくらませた。
 帰国後、二人は再度、中国を経て密入国を図るが……。日本と北朝鮮とを結ぶ裏社会を構想したミステリー。
 破天荒でコミカルな二人組の決死の冒険に、不思議なリアリティーがある。

2006年08月29日

「ペンネームの由来事典」紀田順一郎

 例えば石川啄木。
 本名は一。17歳で上京するが、栄養失調で故郷の療養所に。
 窓の外から聞こえるキツツキの音。その響きに再起を決意する。
 以来、啄木(キツツキの意)と称した。
 また北原白秋。
 中学時代、友人と文学会を結成。
 筆名はそれぞれ「白」の下に一字を置くことにし、くじ引きで「白葉」「白月」などと書かれた札から、彼が引いたのが「白秋」だった。
 明治の文学者を中心に、知られざるエピソードが満載だ。

2006年08月25日

「盲目の女神」井上淳

 一家4人が惨殺され、現場に血文字が残されていた。
 捜査本部は変質者の犯行と見て主力を投入するが、本流を外され怨恨の線を追わされた刑事達は、思いがけぬ動機の存在を歴史の闇から掘り出す。
 戦時中に上海で暗躍した旧日本軍特務機関の暗殺の手口そっくりだったのだ。
 やがて浮上した意外な犯人とは。――壮大な構想を綿密に構成した長編サスペンス。

2006年08月24日

「語り伝えよ、子どもたちに」S・ブルッフフェルド/P・A・レヴィーン/中村綾乃

 戦争を知らない世代のためにスウェーデンで刊行された叢書の一冊。
 ナチスのホロコーストがいかに遂行されたかを、証言、回想録、日記、絵や詩などの資料を駆使して明らかにする。
 犠牲者にはユダヤ人以外にもシンティ・ロマ(ジプシー)や障害者もいたこと、また、子どもの「出て行けユダヤ人!」ゲームも取り上げるなど、内容は詳細かつ具体的だ。

2006年08月23日

「血の聖壇」加治将一

 ロス近郊で、アジア人らしい男性のバラバラ死体が発見された。
 日本領事館の、警視庁出身の星子領事は、ロス在住の日本人実業家が行方不明になった事件の解決を求められていたが、遺体は別人と判明。
 頼りになるはずの日系警官も辞めたといわれ、消息不明だ。
 星子は手当たりしだいに捜査の手を広げるが、第2の死体が……。異色探偵が活躍する、国際色豊かなスリラーだ。

2006年08月22日

「北夷の海」乾浩

 文化5年春、下級役人の松田伝十郎と間宮林蔵は、樺太が半島か島かの検分のため、現地へ向かった。
 伝十郎は西海岸を、林蔵は東海岸を進む。
 伝十郎に先んじて手柄をたてたい林蔵。だが、荒れる天候に苦しむ。
 東韃靼の山河が見えるラッカ岬に進んだ伝十郎は叫んだ。
 「あっ、島だ!」。
 一方、林蔵は……。
 二人の苦難の行程と葛藤、そして人間像が活写され、生き生きと描き出されている。

2006年08月21日

「論破できるか!子どもの珍説・奇説」松森靖夫編

 例えば「宇宙人がいる確率は2分の1だ。だって『いる』か『いない』かだから」という珍説。
 その伝でいくと降水確率は常に50%になり、天気予報は成立しない。
 宇宙人がいる確率を、地球の人類を基準に考えると、
  1. 液体の水が存在できる温度
  2. 呼吸に必要な酸素の存在
  3. 高等生物に進化するための十分な時間の長さ
等、地球に似た条件の惑星の存在確率が問題になる。
 大人も誤りやすい科学の問題を分かりやすく解説してくれる。

2006年08月20日

「アユタヤから来た姫」堀和久

 江戸の初期、山陰の鹿野藩・亀井家に、シャム王国のアユタヤから、王統の血を引く娘サクラが嫁いで来た。
 異国人への周囲の警戒心や幕府からの圧力など、サクラは様々な苦難に直面する。
 さらに大坂夏の陣などの事件にも遭遇。
 しかし藩主の長男である夫・八郎右衛門を信じ“日本人”として健気に生き抜く。
 実際に、海外貿易で雄飛した鹿野藩の事跡をもとに構想された時代小説。

2006年08月19日

「ダーウィンの剃刀」ダン・シモンズ

 カリフォルニア各地で新手の保険金詐取事件が頻発する。背後に大きな組織があるらしい。
 保険会社の調査員ダーウィンが銃撃されたのは、彼らの手口のほころびを見つけたからなのか?
 州検事局の捜査班と協力して、ダーウィンは事件の洗い直しに着手。だが、必殺の狙撃者が向けられる……。
 斬新な趣向のエピソードが満載だ。

2006年08月18日

「坊ちゃん忍者幕末見聞録」奥泉光

 医術を志す出羽庄内の駆け出し忍者・松吉は、剣術修行に出る庄屋の息子・寅太郎の付け人として、共に京を目指す。
 途中、寅太郎は「尊皇攘夷の一隊に入る」と本心を打ち明ける。
 松吉は念願の医家書生に。陰謀渦巻く幕末の京で迷走する2人。
 新撰組や幕末の知名人が登場し、ユーモアと風刺がきいて痛快だ。
 軽妙な語り口で一気に読ませる歴史ファンタジー。

2006年08月17日

「虚貌」雫井脩介

 一家4人が殺傷された事件から21年。主犯とされた荒勝明が出所した直後から、共犯者たちが次々と殺害され始めた。
 荒の犯行とみて警察は捜査するが、老刑事・滝中は21年前の記憶をもとに独自の追及を試みる。
 加害者、被害者、そして追跡者、それぞれの人生模様が複雑に絡み合いながら、事件は意表の結末へなだれ込む。
 類まれな犯人像を作り上げた長編ミステリー。

2006年08月16日

「雨は激しく」小川竜生

 新型コンピューターの発表を目前に、イベント担当の広告代理店の部長が失踪。
 部下の進藤が後を継いだが、発表当日、ライバル企業から瓜二つの製品が発表される。
 部長がアイデアを盗み出したのか?
 ――進藤は部長のパソコンのデータを分析して追跡を始める。
 だが待っていたのは、二重三重の罠だった。
 広告業界を舞台にした異色ミステリー。

2006年08月15日

「『坊っちゃん』はなぜ市電の技術者になったか」小池滋

 副題は「日本文学の中の鉄道をめぐる8つの謎」。
 漱石の「坊っちゃん」は中学教師を辞め、東京に戻り「街鉄の技手」になる。なぜか?
 著者は、彼が物理学校出身で、再び教職に就く気がなく、また「街鉄」が明治期の東京市電3社の1つ「東京市街鉄道」で、漱石の家の近くを通っていたことなどを考証する。
 他に宮沢賢治の作品から“銀河鉄道は軽便鉄道か”などなど。  鉄道好きでなくても、楽しく読めることは間違いない。

2006年08月14日

「文人たちの十和田湖」成田健

 みちのくの神秘の湖へ――。
 柳田国男の来訪は雪の融けかかる大正5年5月。
 雪中に花をつける山桜を見て“山の神を美しい女性と想像した山村の人が、様々な昔話を夢見たのだろう”と思った。
 国立公園指定15周年を記念する像の制作を依頼された高村光太郎は、昭和27年、自身の影を映す湖水の澄明さにヒントを得、向かい合う2体の乙女像を作った。
 江戸期から現代まで、48人の思いと足跡が掲載されている。

2006年08月11日

「千のプライド」桐生典子

 亡父・榎本修吾が愛した8人の女性のうち最も父を愛してくれた人に遺産を分けたい――資産家の一人娘からの依頼で、弁護士見習いの可南子は調査を始めた。
 それぞれに秘めた女のプライド。
 そこに投射される修吾の人生の断面。
 様々な愛の形を知るにつれ可南子の視線も揺らぐ。
 奇妙な依頼の動機の謎に思い至った時、血の惨劇が。
 ち密な連鎖で紡がれた連作長編ミステリー。

2006年08月10日

「鉢屋秀吉〈第1部〉陰の一族」黒須紀一郎

 有史以来、韓半島から日本に流れた人々の末裔に鉢屋一族がいた。
 技能者、芸能者、忍びとなり、世を生きた。
 一族の子、尾張中々村のひえ吉は14歳で修行に出、3年後、藤吉郎と名乗り信長に仕える。
 機知と才覚で数々の功をあげ、一国一城の領主に。
 羽柴秀吉と改名した彼の背後には、常に悲願達成をもくろむ鉢屋一族がいた。
 太閤記にまつわる謎を描く長編歴史小説。

2006年08月09日

「見出された『日本』」大久保喬樹

 19世紀末から1世紀間に来日したフランス知識人5人の日本像をたどる。
 「お菊さん」の著者ロチにとって、日本は理解不能の異郷だった。
 クローデルには、人と自然が融合した理想の地と映った。
 マルローは、サムライ精神を生んだ風土を愛した。
 バルトは文楽など伝統芸能に多神教性を読み取り、レヴィ=ストロースは文明と野生の共存を日本に発見した。
 西欧中心から異文化共存へ――時代とともに変化する日本観を語る。

2006年08月08日

「共犯マジック」北森鴻

 「フォーチュンブック」――それは不幸だけを予言できると評判の、謎の書だった。
 とある書店でこの本を買い求めた7人が、その後20年間にそれぞれに罪を犯す羽目に。
 彼らの犯罪は間接的な連鎖を織り成して、3億円事件など、昭和の犯罪史の裏面を貫く縦糸のような色彩を放ち始める。
 周到な伏線を張り巡らした見事な構成力で、7編の連作が共鳴し合う長編ミステリー。

2006年08月07日

「自分の骨のこと知ってますか」桜木晃彦

 頑丈で軽く、硬くて弾力のある骨。
 その骨が脳や内臓を守っているのだが、精緻な仕組みは意外と知られていない。
 例えば、骨には血管や神経があること。
 また血液を製造しているのも骨。
 男性の骨はごつくて鋭角的なのに、なぜ、女性のは全体的に丸みを帯びているのか。
 骨の起源から骨の形、老化の仕組み、身体各部位の骨の働きなど、最新の知見を踏まえた“骨学”講座。

2006年08月06日

「日本人の忘れもの」中西進

 例えば、子どもの「ごっこ遊び」。
 「大人のまねごと」は大人への成長過程でもあった。それが失われた今、子どもたちは個室でテレビゲームに興じる。
 また昔の人は自然の力を恐れ、人間の浅はかな傲慢を戒めた。
 だが今の人は、自然の脅威に高をくくってレジャーにふけり、惨事を招く。
 現代人が豊かさと引き換えに、忘れ、失ったものの大切さを考えるエッセー集。

2006年08月05日

「ポットショットの銃弾」ロバート・B・パーカー

 スペンサーシリーズ。
 西部の小さな町・ポットショットから、美女が探偵スペンサーを訪ねてきた。夫を殺した犯人を捕まえてくれという。
 町は流れ者集団に牛耳られ、警察も動けない状況。
 スペンサーは彼らに対抗すべく旧知の凄腕仲間を結集する。
 「荒野の七人」さながらだが、背景に大仕掛けが用意されており、さすが大家パーカーとうならせられる。

2006年08月04日

「トルストイ心の旅路」佐藤清郎

 「人生いかに生きるべきか」に悩み、思索した文豪の生涯を日記や作品からたどる。
 ルソーを愛読した青少年期、農村改善の試み、ツルゲーネフとの出会いと衝突、教会からの破門。
 そうした経緯を通して、教会に盲従する「絶対的帰依の感情」でなく“理性をも納得しうる信仰でなければならない”との信仰観に至った道筋、仏陀・孔子らの思想にも目を向けた内面の軌跡を考える。

2006年08月03日

「ゴールド」響堂新

 バンコクで日本人が次々とショック死した。
 バイオ研究者・吉崎が経営する農園の生産米の安全性が疑われ、大使館付医務官・安斎は吉崎を訪ねるが、協力的な態度であり、コメの分析でも不審な物質は検出されない。
 一方、ジョギング中に襲われたり、留守中に部屋が荒らされるなど、安斎の身辺に障害が――。
 麻薬密造を巡るいざこざを描いた国際色あふれる長編ミステリー。

2006年08月02日

「巴」松浦寿輝

 書家を名乗る老人に見せられた16ミリフィルムに魅せられ、大槻は続編の撮影を引き受けた。だが編集からは外される。
 揚げ句、暴力団まがいの男達に襲われ、過去の女の居所を問いただされる始末。素人の自分になぜ?
 老人の残した謎めいた言葉の意味を問い返す大槻が、ふと気づくと連続殺人事件に巻き込まれていた。
 形而上学的な迷宮に読者を吸引する異色ミステリー。

2006年08月01日

「化学・意表を突かれる身近な疑問」日本化学会編

 ビールはなぜペットボトルに詰めないのか? ペット、つまりポリ(P)エチレン(E)テレフタラート(T)はプラスチック繊維の絡み合いなので、隙間から酸素や二酸化炭素が通ってしまい、気が抜け、味が変わるから。
 サケやウナギはなぜ川と海を行き来できるのか? その時期になると浸透圧を調節するホルモンが出て、血液や体液の塩分を一定に保つから。
 聞かれても答えにつまるような身近な疑問は多い。
 本書では、そんな疑問に対する「なるほど!」という答えがギッシリ。
 70項目のQ&Aが収録されている。

2006年07月31日

「北斎の娘」塩川治子

 「お前、男に生まれりゃよかった。そうすりゃ、わしよりいい絵師になっていたかも知れねえ」
 ――『富嶽三十六景』などの作品で有名な葛飾北斎。
 その娘・お栄は婚家を追われた後、父を助けて絵筆を振るった。
 信州・小布施で大作「鳳凰図」を手伝い、一層、画境を深める。
 父を支えつつ「女」であることに苦悩し、絵師としての自立を模索した女性の半生を描いた伝記小説。

2006年07月30日

「ドン・キホーテの独り言」木村榮一

 スペイン中央部の大学都市アルカラー・デ・エナーレスは『ドン・キホーテ』の作者セルバンテスの生地。
 この地に大学の客員教授となって赴任した著者が、生活を楽しむスペインの友人たちの暮らしぶりを伝えるエッセー集。
 闘牛、料理、コーヒー、蜂蜜、釣り、さらに市場の行列まで蘊蓄を傾ける。
 現実と幻想が混然と溶け合ったかのような、スペインの文化・文学風土を楽しむことができる。

2006年07月29日

「覇商の門」火坂雅志

 戦国の世、戦場の死体から甲冑や刀をはぎ取り、修繕して武将に売りつける彦八郎(後の今井宗久)は、世に出る機会をうかがっていた。
 合戦に鉄砲が使われるのを見通して、火薬の輸入ルートを押さえ、鉄砲の量産に着手。
 群雄割拠のなか台頭著しい織田信長に接近する。
 天下一の茶人にして堺の豪商の、野望に満ちた波乱の生涯を描く。

2006年07月28日

「ペトロバクテリアを追え!」高嶋哲夫

 石油生成バクテリアを日本人科学者・山之内が開発した。
 これを察知した石油メジャーや産油国は直ちに実用化阻止に動き出した。
 度重なる妨害のなか、山之内らは培養技術の確立に心血を注ぐ。
 ところが、バクテリアに恐るべき特性が発見された。
 迫りくる暗殺者の姿を感じながら、山之内の下した決断とは……。
 世界を揺るがしかねないバイオ技術の近未来を描くサスペンス。

2006年07月27日

「非核と先住民族の独立をめざして」ケイト・デュース&ゾール・デ・イシュター編

 アラモゴルド、広島、長崎に続き、4度目の被爆地となったマーシャル諸島・ビキニ環礁。
 以後、米英仏の各国は太平洋地域で371回の核実験を行い、放射能汚染は「ジェリー・フィッシュ(クラゲ)ベビー」と呼ばれる奇形児を産み続けている。
 暴力による土地接収、植民地化、微々たる補償といった一連のやり口は、過去のことではなく現在進行形の問題であることを、現地の女性たちの証言を通し告発する一書。

2006年07月26日

「絵本のあたたかな森」今江祥智

 児童文学生活40年の著者が“心にしみる”40冊の絵本を語る。
 エッツ作『もりのなか』は、大人だって不可思議なもう一つの国の子供に会えるファンタジー。
 読者を言葉と絵の両方から主人公の野鼠の詩の世界のとりこにするレオニ作『フレデリック』。
 さらに歴史家・網野善彦と画家・司修による『河原にできた中世の町』はさながら現代の絵巻物。
 童話集、詩画集、写真集などにも目を配り、絵本の魅力の世界を展開。どれも是非、手にとって心あたたかな時間をもちたくなる。

2006年07月25日

「第五福竜丸とともに」大石又七

 1954年3月、ビキニ環礁での水爆実験で「死の灰」を浴びた第五福竜丸。
 その乗組員が語る体験は、核の恐ろしさ、国際政治の非情さを告発する。
 23人の乗組員のうち11人が死亡。生き残った大石さんらもガンを病む。
 また軍事機密の隠蔽のため、日米両政府が被害者を無視して外交決着で「解決」を図ったことへの怒り……。
 東京・夢の島公園に設置されている「第五福竜丸展示館」の詳細な内容紹介も掲載されている。

2006年07月24日

「死者の森」鳴海章

 手首を切断された幼女の遺体が次々と発見された。
 松山市周辺で起きたこの不可解な事件を追う新聞記者・上沢は、解決が長引くなか、大胆にも紙面で犯人像を分析してみせる。
 だが、新たな犠牲者の遺体を支局ビルの貯水槽に投入され、批判の矢面に。
 さらに失意の中で知り合った女性の娘が行方不明になる。
 上沢の決死の追及が実を結ぶのか、犠牲者が増えるのか。殺人者の静かな狂気を浮き彫りにしていく筆致が鋭い。

2006年07月23日

「心にしみる天才の逸話20」山田大隆

 ダーウィンは最初、エジンバラ大学の医学部に入学したが、外科手術実習で卒倒。医者をあきらめ、ケンブリッジ大学に入り直す。
 そこで博物学に触れたことが後の進化論につながる。
 エジソンは不眠不休で仕事に取り組んだことで有名。ほとんど自宅に帰らなかった。
 新しい研究所が開設された日、薄汚れた風体のエジソンを、守衛は浮浪者と思い、入所を拒否した――ほかにキュリー夫人やガリレイなど20人が取り上げられている。
 こういう、こぼれ話風のものは大好物だ。

2006年07月22日

「価格の見える家づくり」山中省吾

 工務店や住宅メーカーなどの元請け会社を介することなく、依頼主が設計事務所と契約を交わし、各種施工業者への直接発注、建材の仕入れなど、すべての価格を明瞭にして家を建てる“オープンシステム”。
 「工費の無駄を省いた安くて賢い家づくり」が可能となる。
 このシステムを考案した建築家が経験をもとに、そのノウハウを紹介。
 30件の建築事例を収めた写真や間取り図を見ているだけでも楽しい。

2006年07月21日

「ハリエット・ジェイコブズ自伝」ハリエット・ジェイコブズ

 米ノースカロライナ州生まれの女性が、その半生を記した自伝。
 奴隷の子に生まれ、農場主の子とともに教育を受けた彼女は、成長してフリント医師に譲られる。
 待っていた性的虐待。逃亡――約7年の屋根裏生活、また北部自由州や英国への脱出行。
 執拗な追跡の果てに、若い弁護士に買い取られる形で「自由」を獲得する。
 その人生の軌跡そのものが“人種とジェンダー、性”について問いかけてくる。

2006年07月20日

「バッハの音符たち」池辺晋一郎

 TVでも軽妙な語り口の著者が、バッハの音符を検証、作曲技術を語る。
 《ゴルトベルク変奏曲》ではテーマと30変奏の骨組みを解明。
 「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ」を食卓の料理になぞらえて分析。
 「平均律クラヴィーア曲集」では現代の12音技法に通じる曲の展開を論じ……と“音楽の父”を縦横に語る。
 また「マタイ受難曲」では作曲者の心理に言及する等、クラシック愛好家ならずとも楽しめる。

2006年07月19日

「涙」乃南アサ

 昭和39年秋、東京オリンピックを目前に、婚約者の刑事が失踪した。
 彼の同僚の娘が暴行・殺害された現場に居合わせた痕跡を残して……。
 諦めきれない萄子は、彼を見かけたとの噂を聞いては追い求める。
 一方、恨みを抱く元同僚も彼を追う。先に見つけるのはどちらなのか。
 2年にわたる旅の果てに到達した一つの結論とは――。
 高度成長期の社会を背景に、衝撃的な真相解明まで一気に読ませる。

2006年07月18日

「話に花を咲かせましょう」神野秀雄監修

 学生たちが老人ホームで高齢者にインタビュー。
 そのやりとり15話を収録。
 例えば福田操さん(95)。士族の娘に生まれ、教師になる。
 当時としては珍しい恋愛結婚。名古屋で空襲に遭う。
 「今は何でも何やっとる時も楽しいです」
 また服部清さん(65)。
 「いつもあそこに座っている百歳のおばあちゃん、あの方は私の親友です」
 どの人にも不思議と心に響く言葉がある。年輪に裏打ちされた深みのような。

2006年07月17日

「パラサイト・レックス」カール・ジンマー

 原題は“寄生虫王”。
 最近は、免疫系で寄生虫の存在が適度な刺激になるとの研究成果も出ているらしい。
 寄生生物はヒトの進化のサイクルに深くかかわったと考えられている。
 とはいえマラリアで今も12秒に1人が死に、象皮病のフィラリア糸状虫に1億2000万人が苦しむ。
 寄生虫の“相手を利用して生きる”戦略を考察する先端の生物学リポート。

2006年07月16日

「天国への階段」白川道

 企業グループを率いる青年実業家・柏木圭一は財力を武器に、胸に秘めた復讐劇を着々と実行していた。
 だが達成を目前に、老刑事の執念から、殺人事件の捜査線上に柏木が浮上する。
 次第に解明される彼の半生。
 26年の時を隔てて明かされる真実とは?
 錯誤の故に、悲劇に悲劇を積み重ねてしまう主人公たち。
 金に翻弄される悲痛、人を思う哀切の織り成す異色作。

2006年07月15日

「地獄の静かな夜」A・J・クィネル

 「愛」がモチーフになった冒険小説短編集。
 ボスニア内戦後の国際法廷で、ペロは戦中に自分を拷問した男を人違いと証言した。
 やがて、男が微罪で短い刑期を終えて帰郷すると、ペロは妹と結婚していた。
 ペロは赦すと言うのだが、胸には秘めた策略が……。「想像力の広さを示したい」と、著者が自負するように、時代背景も筋立ても多彩な、表題作他6編が収録されている。

2006年07月14日

「シーズ ザ デイ」鈴木光司

 ヨットが南太平洋に沈んで16年。
 同乗していた恋人とともに助かった船越は、彼女が後にひそかに自分の娘を出産していたことを知る。
 母親に反発する娘は船越を頼るようになり、やがて、沈んだヨットの位置が判明した。
 沈没は本当に事故だったのか――抱き続けた疑問の回答を求めて、船越は娘に操船技術を教えて共に旅立つ。
 長編ミステリーではあるが、謎が明かされた時、爽快な青春小説だったと知れる。

2006年07月13日

「ダッシュ」内山安雄

 ダムに沈んだ故郷へ16年ぶりに帰省してみると、工事のため水を抜いた湖底から次々と白骨死体が。
 隆二の脳裏に少年時代の連続殺人の記憶が蘇る。
 アジア人労務者と村民の対立、ダム建設の利権争い……北海道の寒村の、激変しつつある環境で、むき出しになっていく人々の欲望がせめぎあい、闇の中へ消えていった。
 そして隆二も取り返しのつかない過ちを犯していたのだった。
 14歳の視点で描いた長編サスペンス。

2006年07月12日

「ピト・ペレスの自堕落な人生」ホセ・ルベン・ロメロ

 ボロ靴にボサボサ頭、花冠をかぶった主人公ペレスはメキシコの風来坊。
 教会侍者・薬剤師助手などをしながら各地を放浪、でたらめ説教・インチキ調剤、殺し以外なら何でもし、もらい酒のため自分の経験を面白おかしく語る。
 知り合いに大統領がいたり、メキシコ独立戦争に巻き込まれたりするが、ピカレスク小説(悪漢小説)の伝統通り、権威や権力を笑い飛ばす。
 1930年代のスペイン語圏ベストセラー小説。

2006年07月11日

「雪月夜」馳星周

 国境の街、根室。暴力団員となった裕司が東京から戻ってきた。
 幼なじみの家電商・幸司に、組の金2億円を持ち逃げした男・敬二を一緒に捜せという。
 敬二はロシア漁船で出国しようとしているらしい。
 幸司が心当たりを探りだすと、地元の裏社会の勢力が一斉に動き始めた。
 政治も経済も国境ゆえのきしみを内包した街に、息つぐ間もない追撃戦が展開していく。
 欺瞞と裏切りを真正面から見据えた、馳星周らしい骨太の長編サスペンス。だが、いろいろと目につくところがあるのも確か。
 「馳星周らしさ」が好きな人なら、それを割り引いても充分に楽しめるはず。

2006年07月10日

「インマイハンズ――ユダヤ人を救ったポーランドの少女」イレーネ・グート・オプダイク

 看護学生・イレーネ、17歳。
 その幸福な人生は1939年、ドイツ軍のポーランド侵攻で激変する。
 長い逃亡の果て祖国に帰った彼女は酷い虐殺に戦慄しつつも、遂に独軍将校の愛人となる道を選ぶ。生きるために。
 そして数々の狂気の嵐をかいくぐり、十数人のユダヤ人の命を救う。
 本書はその体験の口述を綴ったもので、その動機は、いまだに跋扈する“ホロコースト否定の亡霊”と戦うためだという。
 生きるということはきれい事だけではないということ。しかし、その中でも何か人のためになることを行いたい。
 様々なことを考えさせられる一書。

2006年07月07日

「聖の青春」大崎善生

 難病と闘いつつ、夢の実現に向かって壮絶に生き、29歳で亡くなった若き棋士・村山聖(むらやま・さとし)の生き方を描く。著者は将棋雑誌の元編集長。
 幼くしてネフローゼを患った村山聖は、病院のベッド生活の中で将棋と出会い、「名人」になる夢を描き努力の日々を。「A級八段」を獲得する。
 普通、人は死の影にたじろぐが、村山聖はそれを闘いへの強烈なバネへと変え、将棋一途に打ち込んでいく。
 陰で支えた肉親、師匠、友人の愛の姿も感動的だ。
 将棋を知らない人にも一読を勧めたい。

2006年07月06日

「サンチャゴに降る雨」大石直紀

 1973年、チリに独裁政権が誕生。
 ビオレタは10歳の少女、彼女の初恋の人ガルセスは14歳だった。
 米国へ脱出したビオレタは母国解放を主張する映画女優に育ち、85年、独裁者打倒を目指す偽装テレビ取材陣と共に帰国した。
 だが、まさに暗殺決行の瞬間、ガルセスが現れた。大きく変貌を遂げて……。
 89年の民主化回復、更に2001年へと物語は展開する。
 2人を軸に、チリ現代史の陰影を照射する迫真の歴史サスペンスだ。

2006年07月05日

「夜に沈む道」ジョン・バーナム・シュワルツ

 米国北部の田舎町を舞台とした長編スリラー。
 寂れた小道で十歳の少年がひき逃げされ死んでしまった。
 わきへ寄れと注意できなかった父親、息子を亡くした喪失感に沈む母親、そして逃亡しつつも罪の意識におののく加害者――心に開いた傷口が三者三様に広がっていく。
 父親が加害者を突き止めた時、一気に避け難い破局へと押し流されていく。
 平凡な日常の脆さを精緻な筆遣いで説得力満点に描き出した、完成度の高い作品。

2006年07月04日

「雨の鎮魂歌」沢村鉄

 生徒会長の一村和人の刺殺体が旧校舎で発見され、立て続けに校長室放火など異常な事件が起こる。
 田舎町の中学校に動機や犯人をめぐる憶測が走る。生徒会の副会長・古館が何かを隠しているようだ。
 彼らを仲間だと思っていた徹也は無力感にいらだちながらも、仲間との心の絆を取り戻そうと、事件に挑む。
 思春期の心の揺らぎや思いやりが、謎解きの糸口を遠ざけてしまう、巧妙な仕掛けを組み込んだ異色の長編ミステリー。

2006年07月02日

「慚愧の淵に眠れ」松本賢吾

 元警官で元遊び人、そして今は墓地の納骨作業員の原島恭介。
 そんな彼を昔の仲間が突然訪ねてきた。
 用件も話さず帰った翌々日、彼は溺死体で発見される。
 事件の匂いをかいだ原島は周辺を洗いはじめるが、なぜか警察はかたくなに自殺と断定しようとする。
 警察官の経歴を持つ著者ならではの、ユニークな視点から警察の腐敗をつく、屈折した中にも筋の通った正義漢を生み出した、密度の高い長編ハードボイルド小説だ。

2006年07月01日

「鬼花葬」東田真由子

 人間の邪念・邪気を食らい、人間の存在を脅かす「鬼」を、数百年間にわたって封じてきた真城家。
 その真城家の娘・玉綾が、王鬼の息子を愛してしまったことから起こる愛憎渦巻く復讐劇を、輪廻転生をからめて描いた怪奇幻想小説。
 因縁づけられた真城家にまつわる人々の魂の救済を通して「生と死」を見つめ、加えて、「愛」の切なさと「命」の浄化をうたいあげる。
 みずみずしい感性にあふれる作品だ。

2006年06月30日

「告発」鬼島紘一

 旧国鉄用地を独占せよ――ゼネコン首位の座を目指し、難波組は国鉄OBを中核に、特別チームを発足させた。
 彼らは鉄道用地管理公社に食い込み、入札に関する内部情報を巧みに入手、次々に落札を成功させていく。
 だが、設計技師の黒崎健三は上司の手柄話の端々から公社との癒着を疑いだす。
 やがて彼の下した決断とは……。
 談合、天下り、癒着といった構図が生々しく活写された、臨場感あふれる経済ミステリー。

2006年06月29日

「戦争を知るための平和学入門」高柳先男

 米ソ冷戦が深刻化した50年代に、戦争の原因を突きとめ平和の諸条件を探究する“平和研究(平和学)”が生まれた……らしい。
 恥ずかしながら浅学にして、初めて「平和学」なるものがあることを知った。
 それだけでも本書を手にした価値があったというもの。
 「平和学」の現在は、70年代のデタントやイラン・イラクなど第三世界の軍事化、またボスニアなど民族のアイデンティティーをめぐる紛争や、開発至上主義による途上国の貧困化が研究対象になる。
 日本の開発援助も視野に入れ、「下から」の、「民衆」の視点に立つ研究のあり方を追究した著者の講義をまとめた一書。

2006年06月28日

「魂丸」阿井渉介

 魂丸は大井川港所属の漁船。
 出漁中、小型船に接触してしまった。直後に大型船が現れ、甲板から銃撃された。
 乗客に事故の様子を証言させようとするが、逃亡を図ろうとし、さらに暴力団らしきグループから追撃を受ける。
 客は密入国者らしい。しかも仲間を蛇頭から救いたいようだ。シャチのあだ名を持つ主人公は手を貸すことに。が、逃避行は困難また困難……。
 海の男の血潮たぎる魂を骨太に描いた長編アクションだ。

2006年06月27日

「一瞬の光のなかで」ロバート・ゴダード

 イギリス人カメラマンのイアンは夫ある女性・マリアンとの恋に落ちた。しかし彼女は突然に姿を消してしまう。
 必死に足跡を追うが、次々と妨害も。
 やがて彼女を診た心理療法医を探し当て、マリアンの不思議な心理体験を明かされる。
 それは写真術の黎明期の歴史上の人物が彼女に憑依したという現象だった。果たしてマリアンの正体とは……。
 謎また謎の目まぐるしい展開を、見事にまとめた構想力が光る一冊。

2006年06月26日

「死の序列」キャスリーン・レイクス

 テンペ・ブレナンは米南部の大学で教える傍ら、カナダのモントリオールの法医学研究所で骨の鑑定に取り組んでいる。
 焼死と見られた死体の頭蓋骨に弾痕が発見され殺人事件が発覚。
 休暇で訪れた島でも惨殺された遺体が。二つの事件は一見無関係と思われたが、テンペの行く先々で次々と殺人事件が発生する。
 やがて、それらが関連を見せ……。
 くじけそうになりながら困難に立ち向かう主人公の描写に引き込まれた。

2006年06月25日

「MARI」八木啓代

 現実の事件を背景に、中米社会を共感を込めて描く国際政治サスペンス。
 パリに住むオペラ歌手・万梨にはロベールという婚約者があった。
 1989年12月、ジャーナリストの彼は米軍のパナマ進攻に遭遇し消息不明に。
 現地に飛んだ万梨は赤十字の係員やロベールの友人と真相を探る。
 だが、そこは米軍や新旧政府軍、麻薬組織、果ては日本大使館も係わる水面下の争奪戦の場だった。
 彼らが探しているものとは?
 婚約者の安否は?

2006年06月22日

「DZ(ディーズィー)」小笠原慧

 横溝正史賞受賞作。
 ワシントンの大学病院の医師グエンは霊長類の遺伝子操作に取り組んでいた。
 だが、彼の実験の真の目的を嗅ぎつけた助手の石橋が殺害される。
 一方、石橋の恋人・志度涼子は、関西の障害児施設で、重度の精神病の少女の治療に専念していた。
 その少女の染色体異常に関する論文に目をとめたグエンは遠路、涼子を訪ねる。
 果たして彼は何を企んでいるのか……。
 遺伝子の奥深い秘密をスリリングに描いている。

2006年06月21日

「明治おんな橋」平山寿三郎

 「それぞれの橋」を三人三様に懸命に渡り、維新の転変を生きた女たちを描いた時代小説。
 大奥から商家に嫁いだ美代は、両国橋を渡って浅草旅篭町の上州屋に嫁入り。
 美代にとって、両国橋は、大奥から商家、士族から平民、慶応から明治、江戸から東京へと渡る橋であり、まだ見ぬ男の妻になりゆく橋であった。
 また、遊女の境遇から大料亭の女将へのし上がったお倉、戦に狂わされた過去を捨てて生きる会津士族の娘の律。
 まさに人生という名の橋渡り。読後にしみじみとした切なさを感じさせてくれる。

2006年06月20日

「アメリカ南西部物語」高橋純

 アメリカ南西部に魅せられて、レンタカーで毎年、ひとり旅を続ける著者。
 古の先住民が描いた岩絵を見るために、荒野のハイウェイを飛ばし、スペイン文化の色濃いサンタフェの街角では、大地の香りに酔う――豊富な写真とともに、南西部の「物理的広さ」「文化的深さ」「劇的に変化する自然」の醍醐味を伝える体験記。
 何より、心を引きつける「磁場」とも言うべき場所で「自分を探す」旅の楽しさが感じられる一書だ。

2006年06月19日

「ヨーロッパのカフェ文化」クラウス・ティーレ=ドールマン

 文人・芸術家が集い、コーヒーを飲みながら議論したカフェ。
 そこを中心に前世紀末の“アール・ヌーボー”など欧州の文化運動は成立した。
 水の都ベニスの「フローリアン」、亡命者が集ったチューリヒの「グランド・カフェ・オデオン」などの名門カフェ。
 またブダペスト、ベルリン、パリのカフェ、イギリスのコーヒーハウスを探訪し、今も残る古き良きヨーロッパを味わうユニークな文化誌だ。

2006年06月18日

「わが夫、還らず」殿島三紀

 ベトナム戦争終結から31年。
 ベトナムやカンボジアの取材で命を落とした5人のジャーナリスト――酒井辰夫、高木祐二郎、柳沢武司、沢田教一、高野功。
 彼らの優れた記者魂を、現場調査を含めて子細に取材。
 また夫亡きあとの年月を、妻たちがどのような苦難に耐え、生きてきたかを描き出す。
 巻末には、同時代にベトナム戦争を取材し、今もフォト・ジャーナリストとして活躍する石川文洋氏の回想録が収録されている。
 戦争とは? 平和とは?……。戦争という極限状態の中で暴かれる人間性。
 今だからこそベトナム戦争から学べることがある。読み終わってそう感じた。

2006年06月17日

「M1(エム・ワン)」池井戸潤

 教え子の女子高生から、父親の会社が倒産寸前だと相談を受けた教師の辛島は、その救済のために、商社勤務時代の財務評価の知識を生かして、大口取引先との交渉に乗り出す。
 その企業は小さな町に君臨し、絶対的な支配力をテコに、独自の通貨を強引に使わせていた。
 交渉は不調に終わるが、辛島は会社の弱点を必死に探し、ついに巨大な悪の構図をあばき出す――。
 異色の経済・金融サスペンスの味わいは、元銀行マンの著者ならでは。

2006年06月16日

「美しい鹿の死」オタ・パヴェル

 森の動物が水を飲みに来る泉。
 チェコ・プラハの人々の素朴な生活も、ヒトラーの侵攻で変わっていく。
 強制収容所に入れられることが決まった息子のため、「おやじ」は銃殺覚悟で犬を連れ、鹿の密猟に出かける。
 ユダヤ人の父とチェコ人の母を持つ著者が、自身の体験をもとに、戦前・戦中のナチス支配から戦後の社会主義へと激しく変化していく世相と美しい自然の中での庶民の家族の温かい絆を描く短編小説集。

2006年06月15日

「暗夜」志水辰夫

 腹を刺され、港に沈められた弟。普通の貿易商のはずだったのに、不法持ち込みされた唐三彩の名品を母に託して隠し持っていた。
 それがトラブルの原因なのか――榊原は弟の足跡を追って中国各地を回り、盗掘団を捜し当てた。だが、弟を巻き込んだ修羅場は、榊原の予想をはるかに超え、大陸に発する恩讐に彩られたものだった。
 中国との深まる交流を背景に描かれたハードボイルド長編。
 巧みな人物造形に説得力が感じられます。

2006年06月14日

「好敵手」ブラッド・メルツァー

 仲のいい夫婦サラとジャレッド。
 苦労の末、検事補の職を得たサラは押し込み強盗事件の担当になった。 だが、単純そうな事件の背後に強大な力がうごめくのが見えてきた。
 一方、弁護士である夫のジャレッドに裕福そうな依頼人から仕事が入った。喜ぶ夫だったが、妻の担当事件だと判明。しかも負ければ妻を殺すと脅迫される。
 妻も同様の脅しを受け、二人はだまし合いを余儀なくされる窮地に……。
 互いの命を守るために相手に勝たなければならないというジレンマ。それを軽快なタッチで描いている。

2006年06月13日

「サイレント・ナイト」高野裕美子

 日頃から定期点検の不備を社長に訴えているベテラン整備士・古畑実だが、15年前の高校時代のワル仲間が相次いで殺害された。
 一方、華々しく新規参入した航空会社の機体から不発の爆弾が見つかった。古畑は心ならずも事件に巻き込まれていく。
 社長・鶴見の周辺に暴力団の影が浮かぶが、犯人像に決め手がないまま、今度は鶴見の息子が誘拐された。
 犯人は金品ではなく、ジャンボ機を集めて爆破するよう要求。時間切れ目前、連続殺人と鶴見との、長い時を隔てた意外な接点が……。
 ヒューマンタッチの臨場感あふれる犯罪サスペンス。じっくり推理の過程を楽しめる。

2006年06月12日

「海の隼」大島昌宏

 1600年3月、オランダ船リーフデ号が豊後の臼杵湾に漂着した。
 その生き残りの乗組員24人の中にいたイギリス人の航海長ウイリアム・アダムス。彼は砲撃手として関ケ原の合戦に参加し、徳川家康を勝利に導く。
 以後、相模国三浦郡に所領を得て三浦按針と名乗り、家康の旗本・外交顧問としてオランダやイギリスとの交易推進などで活躍。
 その数奇な運命を描いた歴史小説。イギリス人の目に映った家康像が興味深い。

2006年06月11日

「地下墓地」ピーター・ラヴゼイ

 改装工事中のビルの床から20年前の手首の骨が発見された。しかもそこは、かつて小説『フランケンシュタイン』が執筆された場所であることが判明し、マスコミは騒然とする。
 さらに、ゆかりの品を所蔵していた骨董商が殺害されて、事件はいよいよ錯綜していく。
 ダイヤモンド警視は新任副署長の圧力を受け、同僚刑事との縄張り争いの確執をぼやきながら、鈍重に見えて鋭い追求を重ね、意外な犯人をあぶりだす。
 ゴシック・ホラー風味もきかせながら、謎を解いていく過程も読ませる。

2006年06月10日

「国際結婚イスラームの花嫁」泉久恵

 世界の三大宗教と言われる中で、日本人にとってイスラム教への理解が最も薄いのではないか。  本書は、アフガニスタンに嫁いだ日本人女性の数奇な人生をたどるドキュメンタリー。
 異なる衣食住へのとまどいや、一夫多妻制ゆえの「もう一人の妻」との確執。更にソ連のアフガン介入が、夫婦を十九年間、遠ざけることになる。
 見えにくかったイスラム社会を、その中で暮らす女性の視点から描いている。
 命がけの国外脱出談では、難民の抱える苦悩も浮き彫りに。
 その中でも、京都出身の女性の前向きな性格と、はんなりした言葉遣いが、重い内容をも明るくしていると思う。

2006年06月09日

「かくれ里紀行」早乙女貢

 例えば岡山県新見市。中国山地の山間静かな町だが、なかでも坂本の地は、明智光秀の残党が近江坂本城から落ち延びたところと言われている。
 ここに立った著者は、彼らの逃走経路を推理し、乱世の敗戦の武者たちの悲惨な日々に思いをはせる。
 また役ノ小角や源頼朝、平家の落人等、幾多の流人を迎えた伊豆、幕末に官軍と会津軍が戦った福島県の大内、隠れキリシタンの島・生月島など13の地を訪ね、歴史の残照に物語を紡いでいく。
 かくれ里というだけで、そこはかとないもの悲しさを感じる。
 山がちな島国である日本の原風景には、どこかかくれ里のイメージが伴うのかもしれない。

2006年06月08日

「北海道人 松浦武四郎」佐江衆一

 知らないことというのは、本当に多いもの。
 本書で紹介されている松浦武四郎とは、幕末の激動期に、北方のロシアの脅威に目覚めた探検家。志士であり、民俗学者・地理学者・植物学者でもある。
 そして「北海道」の名付け親でもあります。
 この時代に一人、松前藩の苛政によるアイヌの惨状に心痛し「ロシアの南下をこれでは阻止できぬ」と喝破。アイヌの生活や人口の変化、彼らの窮状や産物の調査などをするなか、「アイヌは和人も及ばぬ高徳の民」と、敬愛の念で接した。
 波瀾の生涯を活写した歴史小説として、おすすめの一書。

2006年06月07日

「パナマの仕立屋」ジョン・ル・カレ

 舞台は返還間近のパナマ運河。
 利権の行方を巡り、各国の思惑が交錯する中、富豪や高官相手の仕立屋を営んでいるペンデルが“偽りの経歴を暴く”と脅され、英国のにわかスパイになってしまう。
 監督官の追及に応じたいばかりに、ペンデルの嘘はふくらみ、遂には反政府勢力が蜂起するとのデマを創作してしまう。が、英国側がこれを真に受け、大々的な支援態勢に入ってしまい、事態は意想外の方向へ――。
 揺れる英国大使館の様子に失笑しながら読み終えた。
 スパイ小説と言えば、有能な登場人物が難事件を解決という形だったが、本書は、無能な人間が引き起こすコントロール不能な大事件を描く。
 ある意味、冷戦後のスパイ小説の一つの道を示したと言えるかも知れない。

2006年06月06日

「盗まれた夢」アレクサンドラ・マリーニナ

 モスクワ効外で死体が見つかった。商社の女性秘書だった。
 市警の内勤から現場へ駆り出されたアナスタシアは得意の犯罪分析能力(プロファイリング)を生かし、孤児だった被害者の生い立ちに手がかりを見いだす。が、課内に犯罪組織への内通者がいるらしく、捜査は様々に妨害を受け、彼女が脅迫の対象に……。
 捜査機関のなかに、犯罪組織とのつながりをもった職員がいるのは、ロシアではとっくに周知の事実らしい。
 そういう意味でも、冷戦後の転換点に立つロシア社会の状況を、臨場感豊かに描いた警察ミステリーだと思う。
 ちなみに作者であるアレクサンドラ・マリーニナは、ロシア初の女流ミステリー作家……とのこと。

「吃逆」森福都

 時は中国・宋の時代。
 陸文挙は科挙に合格したが、下位合格のため職がない。そこに周季和なる男が現れ、探偵として雇いたいと言う。陸には吃逆(しゃっくり)の癖があり、しかも、しゃっくりするたびに奇妙な光景や人に見えないものが見えたり、奇想が閃いたりする。
 この不思議な能力を駆使して開封の都で起こる難事件に挑む。
 ミステリーというか、ファンタジーというか、ともかくユーモアあふれた展開の中に、そこはかとない暗さを感じさせる不思議な作品。

2006年06月05日

「スコーピオンズ・ゲート」リチャード・A・クラーク

 サウジに革命政権が誕生し、指導部内では核武装論が台頭。石油利権を見返りに中国から核弾頭の提供を受けようというのだ。
 折しもイラクはサウジの仕業を装いテロ活動を展開。中東一帯に緊張が高まっていく。
 米情報機関高官のマッキンタイアは革命政権の穏健派と結び、武力衝突回避に秘策を巡らすのだが……。
 米政府元高官、それもテロ対策の元最高責任者によるポリティカル・フィクションは最後まで刺激にあふれている。
 どこまで真実かは分からないが、中東問題、テロ問題などへの示唆に富んだ一書であることは間違いない。

「パズル・パレス」ダン・ブラウン

 映画化の影響で、様々紛糾している「ダ・ヴィンチ・コード」の作者ダン・ブラウンのデビュー作。
 アメリカ政府の中枢で、世界中の通信を傍受し、暗号を解読する極秘システムが稼働していた。だが、そのシステムにも解けない暗号を開発したという男が出現し、殺害される。
 暗号解読のキーワードを巡って政府代理人と謎の暗殺者との追跡劇が始まった。
 10年前にこの内容、時代を見る目は確かということか。二転三転の舞台回し、息をのむ疾走感は流石だ。

2006年06月04日

「チーム・バチスタの栄光」海堂尊

 東城大学病院で手術成功率100%を誇ってきた“チーム・バチスタ”。心臓移植の代替の「バチスタ手術」を行うチームだ。
 しかし3例の術中死が続き、病院長は若手講師に原因解明を託す。ミスか、殺人か。謎は深まる。
 そこへ破天荒な役人が厚生労働省から乗り込んできた。二人三脚の探偵は病院を混乱に巻き込みながらも、見事に謎を解く。
 面白い。現役医師の手になるだけに、医療現場のリアリティにあふれている。それだけでワクワクしてくる。
 単なるミステリーとしては、奇抜さがない感じだが、田口と白鳥・二人のキャラクターが発する魅力は、それを補ってあまりある。

「天国の扉」沢木冬吾

 名雲修作は、自宅が放火されて妹が焼死したことに責任を感じ、10年来、流浪の旅に出る。だが突然拉致され、監禁中に、ある殺人事件の犯人に仕立て上げられてしまう。
 脱出したものの、指名手配の身の上となり、自首すれば弟を殺すとの脅迫が。蟻地獄のような状況に立ち向かう修作だが、二重三重のワナが巧妙に仕掛けられていた。
 サスペンス風味だけど、火事で崩壊した家族の絆の再生のドラマとして読むと味わい深いものがある。
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etacky エタッキー
 地方在住者。
 若干、活字中毒気味。
 ただし読書速度は速くはないので、気ままに読み進めています。
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